炭酸が抜けるまで

喧嘩をした翌日も、私たちは同じ自販機の前にいた。

放課後、体育館裏。部活帰りの生徒が通るたび、気まずそうに私たちを避けた。

昨日、文化祭の準備を一人に押しつけた、押しつけていないで言い争った。十年来の親友なのに、最後は「もう一緒にやらない」とまで言った。

彼女は炭酸飲料のボタンを押した。缶が落ちる音が、妙に大きかった。

「これが抜けるまでに決着つける」

缶を開け、ベンチの真ん中へ置く。細かい泡が飲み口から弾けた。

「何そのルール」

「長引くと面倒だから」

「もう長引いてる」

「一日で?」

私も同じものを買った。開けた瞬間、泡が吹きこぼれて指が濡れた。

彼女が笑いかけ、すぐ真顔へ戻った。

「昨日、帰ったのは悪かった」

「私も、全部任せたみたいな言い方した」

「でも実際、任せた」

「そっちも連絡しなかった」

「した。既読つかなかった」

「スマホ、家に忘れてた」

言い訳を重ねるたび、昨日の怒りが少しずつ馬鹿らしくなった。

けれど、謝れば終わるほど簡単でもなかった。私は彼女が新しい友達とばかり話すようになったことが寂しかった。彼女は、私が何でも分かっている顔で注意するのが嫌だったらしい。

缶の泡が落ち着いたころ、ようやく本当の話になった。

「置いていかれたと思った」

私が言うと、彼女は目を伏せた。

「置いていくつもりはなかった。でも、ずっと隣にいる前提で話されると苦しい」

胸が痛んだ。

「じゃあ、どうするの」

「隣じゃなくても友達でいる練習する」

彼女はぬるくなり始めた炭酸を飲んだ。

私も口をつけた。最初より刺激が弱い。

「炭酸、まだ残ってる」

「じゃあ、もう少し話せる」

私たちは文化祭の役割を最初から分け直した。帰る時間も、昼休みを過ごす相手も、互いに自由にすることにした。

最後の一口は、ほとんど甘い水だった。

「決着ついた?」

彼女が聞いた。

「引き分け」

「次は振ってから開ける?」

「それは戦争」

二人で笑った。

次の日、教室では別々の席に座った。昼休みも別の友達と食べた。

放課後になると、彼女が自販機の前で缶を二本持って待っていた。

「今日は炭酸抜ける前に帰ろ」

私たちは隣ではなく、半歩ずれた位置で歩き出した。