無人の別荘に百人

桜貫谷禾乃が海辺の別荘へ着くと、芝生に紙コップが散り、プールの水は茶色く濁っていた。

学生時代の友人・五百旗原沙里からは、前夜に短いメッセージが届いていた。

〈使ってない家なら、今週末だけ貸して。友達なんだから無料でいいよね〉

禾乃ははっきり断った。ところが沙里は、以前預かった宅配ボックスの暗証番号から玄関コードを推測し、勝手に入ったのだ。

室内のソファには煙草の焦げ跡。浴室の石材は染料で変色し、プールの循環器にはビール瓶の破片が詰まっている。近隣住民によれば、百人近い客が出入りし、入場料を取るパーティーが開かれていた。

沙里は電話口で言った。

「宣伝してあげたんだから得でしょ。友達の家を友達が使って、何が悪いの?」

禾乃はスマートロックの管理画面を見せた。

玄関、勝手口、倉庫。午前中だけで四十七回開閉され、沙里が臨時コードを何十個も発行していた。監視カメラには、客へ〈一人一万円、オーナー公認〉と説明する姿が映る。決済アプリの公開ページにも、会場住所と料金が残っていた。

別荘は単なる空き家ではなかった。翌週から建築雑誌の撮影と、家具ブランドの展示会を予定していた。汚損のため両方が延期され、違約金と逸失した使用料を含む損害は六百万円を超えた。

沙里は「保険で直せばいい」と言った。

保険会社は、所有者の許可を得ない有料イベントと故意に近い使用について、沙里側へ求償する方針を示した。さらに自治体は、届出のないイベント営業と騒音について確認を始めた。

沙里は禾乃の前で泣き出した。

「売上はもう会場費や景品に使ったの。友達なら、せめて半分は負担してよ」

「私は客でも共同主催者でもない。家を壊された所有者です」

弁護士が、修繕費、撮影延期損害、近隣への清掃費をまとめた示談書を置いた。沙里の両親は、娘が実家名義のカードまで使っていたと知り、援助を打ち切った。沙里は預金と車の売却代金を充て、残額を長期分割で払うことになった。

最後の臨時コードが削除され、沙里の端末へ〈アクセス権限なし〉と表示された瞬間、ただで使えると思った別荘は、彼女が何年も払い続ける最も高い会場になった。