王女を埋める石
王女オルフェナを城壁の下へ立たせたのは、私だ。
反逆罪という名目は整えた。証人は買い、署名は偽造し、彼女を支持する騎士たちは国境へ送った。あとは老朽化した西壁を崩し、事故として片づければ、王位は弟である私――ケルディスのものになる。
「最後に何か?」
私は胸壁から尋ねた。
鎖につながれた姉は、こちらを見上げもせず、背筋を伸ばした。
「民を下がらせなさい。石が飛ぶわ」
死ぬ者のくせに、最後まで命令口調だった。
私は合図の旗を振った。破城術師が支柱を爆破し、城壁が内側へ折れる。石塔、胸壁、投石器までが轟音とともに姉の上へ落ちた。広場は褐色の煙に沈み、見物の貴族たちは口元を扇で覆った。
これで終わった。
そう思った私だけが、煙の中に細い縦線を見た。
鎖だ。姉の両手を縛っていた鎖が、崩落前と同じ高さから垂れている。下敷きになったなら、地面へ倒れていなければおかしい。
煙が晴れた。
オルフェナは同じ姿勢で立っていた。頭上から落ちた石は粉になり、靴の周囲に円を描いて積もっている。銀の鎖だけが、自重に耐えられず切れていた。
貴族席の老女が、二十年前の離宮火災の話を口にした。幼いオルフェナだけが、焼け落ちた塔の中心から無傷で出てきたという噂だ。当時それを迷信として揉み消したのも私だった。姉は今日突然強くなったのではない。私は、死なない相手を二十年かけて処刑台へ運んだのだ。
誰かが「王家の加護」と呟いた。
私は笑った。笑わなければ、全員が私の顔色を見る。
「古壁では処刑にならぬ。雷冠を持て」
国王だけが使える宝具を、戴冠前の私が奪ってきた。冠の宝石へ魔力を注ぐと、雲のない空から雷柱が落ちる。広場の石が沸騰し、白煙が城を覆った。
姉はまた、同じ姿勢で立っていた。
今度は鎖もない。両腕を自然に下ろし、こちらを見上げている。その目に怒りがないことが、怒鳴られるより恐ろしかった。
鑑定官が震える手で測定鏡を向ける。私は「数値を読め」と命じた。
鏡面を走った数字は桁を増やし続け、やがて一行の文字へ潰れた。
《防御値――測定不能》