王宮の水が濁った朝

聖女アウレシアが王都を追われた翌朝、王宮の噴水から鉄錆色の水が湧いた。

侍従長ケルディクは、配管工を百人呼べと怒鳴った。だが厨房の井戸も、兵舎の水瓶も、同じ臭いがした。朝食の茶を一口飲んだ王太子が吐き、洗顔した侍女たちの頬には赤い斑点が浮かぶ。

「昨夜までは澄んでいたではないか!」

水道長は青ざめ、王都の北にある取水口の記録を差し出した。

そこには毎朝一行だけ、同じ文字があった。

――アウレシア聖女、夜明けの浄水祈祷を完了。

王家は彼女を雨乞いの聖女だと思っていた。旱魃の年に雨を降らせられなかったから、無能として国境の外へ追放した。だが彼女が毎日祈っていた相手は空ではない。古い銀山を通って王都へ来る水から、鉱毒だけを沈めていたのだ。

急造の浄化術は、水の臭いを消しただけだった。透明になった杯を飲んだ兵士が次々と腹を押さえ、王宮は昼までに閉鎖された。市場では「王の水は毒」という声が広がり、宿屋は井戸を持つ南区の客だけで満室になった。

王宮は南区の井戸水を買い上げようとしたが、噂を聞いた商人が値を十倍にした。厨房は水を使う料理を止め、衛兵には一杯ずつしか配れない。水道があることを国の豊かさだと誇ったその日に、王族は手を洗う水さえ銀貨で量ることになった。

王宮の銀杯を満たせる者が、都で最も強い商人になった。

同じころ、アウレシアは砂漠の開拓村で、深井戸の縁へ白い紐を結んでいた。村長マレヴォが汲んだ水を飲み、目を丸くする。

「塩辛くない。子どもに飲ませても大丈夫なのか」

「毎朝、一度だけ祈れば保てます。祈り方は村の方にも教えます」

人々は彼女の像ではなく、井戸番の当番表を作った。聖女一人へ依存しないようにしたいという彼女の提案を、村はその日のうちに採用した。

夕方、金縁の召還状が届いた。

――王命である。直ちに帰都し、王宮水道を清めよ。

アウレシアは村の公印を借り、封筒の表へ返却と記した。

「王国浄水官としての契約は、国外追放令の執行日に終了しております」