甲羅の中の返事

教室で笑われた日、少年は家の亀へだけ話した。

発表で言葉に詰まり、先生に励まされるほど、周囲の顔が見られなくなった。

母に聞かれても、

「別に」

と答え、自室へ閉じこもった。

水族用品店の試供品に、亀用の翻訳輪があった。

首へ付けると、亀が甲羅へ頭を引っ込めるたび、一文だけ言葉になる。

少年が指で甲羅をつつく。

亀は首を引っ込めた。

「急に空が近づいた」

「怖いの?」

もう一度つつく。

「固いところへ戻っただけ」

少年は、逃げたと言わない亀が気に入らなかった。

自分は教室から保健室へ逃げた。

家でも母から逃げている。

「ずっと中にいれば楽?」

亀はしばらく首を出さなかった。

無理に触ろうとすると、さらに奥へ入る。

ようやく出て、水面の餌を食べた。

次に驚かせたとき、翻訳輪が言った。

「出るのは、外が安全になってから」

少年は手を止めた。

先生も母も、「勇気を出して」「もう大丈夫」とすぐ外へ引っぱろうとした。

安全かどうかを決める前に、出ることだけを求められている気がしたのだ。

その夜、母が部屋の扉を叩いた。

「学校で何かあった?」

少年は「別に」と言いかけ、亀の水槽を見た。

「まだ話せない」

母は扉の外で黙った。

「いつなら話せる?」

「分からない」

「じゃあ、ここにいる。入らないから」

母は廊下へ座った。

少年は扉を開けなかった。

それでも、誰かが外を安全にしようとしている気配を、初めて感じた。

一時間後、少年は扉を細く開けた。

母へ、笑われたことを全部ではなく、一つだけ話した。

母は「明日は行ける?」と聞かなかった。

代わりに、

「明日の朝、どうするか一緒に決めよう」

と言った。

翌朝、少年は一時間目を保健室で過ごした。

二時間目、教室の扉まで行き、入れずに戻った。

三時間目に席へ座った。

誰かがこちらを見たが、すぐ黒板へ向いた。

帰宅すると、亀が水槽の外へ出ようとしていた。

翻訳輪はもう電池切れで、何も話さない。

少年は甲羅をつつかず、手を前へ置いた。

亀は自分の速さで掌へ乗った。

隠れることは、負けではない。

外へ戻るために、自分の固い場所で息を整える時間だった。