画面右上の当選通知
高城七海は、仕事の通知だけを信じる人に見られていた。チャットの返信は三分以内、会議資料は前夜までに完成。雑談で休日を聞かれても「家のことをしていました」としか答えない。
本当の休日は、八人組アイドル〈mellow8〉の芹央を追って全国を移動していた。けれど、その熱量を職場に持ち込むのは幼い気がして、スマートフォンの待ち受けさえ初期画像にしていた。以前、昼休みに別の社員が『アイドルに夢中な人って仕事も現実も見えてなさそう』と言ったとき、七海は反論できず、一緒に曖昧な笑いを浮かべてしまった。その笑いが、ずっと喉に残っていた。
四半期報告のオンライン会議で、七海は画面共有を始めた。売上推移のグラフを説明している最中、右上に通知が滑り込む。
〈芹央オンラインお話会 ご当選のお知らせ〉
四十人分の小さな顔が、一斉に静止したように見えた。
七海は通知を消し、何事もなかった声で説明を続けた。だが、耳の奥では「お話会」という単語だけが反響していた。会議が終わったら、録画を消して、当選も辞退しよう。そうすれば仕事の七海に戻れる。
終了直後、後輩の保科澪から個別チャットが来た。
〈録画は開始前の設定ミスで保存されていません。部長には私からそう報告しました〉
続いて、もう一通。
〈私はアイドル詳しくないです。でも、当選ってすごいんですよね。辞退する顔をしていたので、念のため〉
見透かされた恥ずかしさより、守られたことのほうが胸に残った。七海は返信欄に何度も「すみません」と打ち、消した。
翌朝、チームの共有予定表に来月の午後休を登録した。理由欄はいつも「私用」で済ませていたが、今回は指が止まらなかった。
〈オンラインイベント参加のため〉
送信すると、澪がすぐにスタンプを押した。クラッカーが弾ける絵だった。
七海はスマートフォンの待ち受けを、ライブ会場で笑う芹央の写真に変えた。仕事の通知がその上に重なっても、もうどちらかを消す必要はなかった。