白い布よりやわらかな卵サンド

 森の民シェルファは、交流駅の売店で立ち止まった。

 硝子箱の中に、白い三角形が整然と並んでいる。札には「たまごサンド」と書かれていた。彼女の故郷では、卵は祭りの朝に殻ごと焼き、塩を振って食べるものだ。こんなふうに潰し、白いパンへ挟むなど聞いたことがない。

「柔らかすぎて、旅には向かないのでは」

 売店の女性は笑った。

「だから、ここで食べていってください」

 シェルファは待合室の端へ座り、包みを開いた。パンの耳は落とされ、指で持つだけで少しへこむ。黄色い卵には白身の粒が残り、胡椒が点々と混じっていた。

 一口かじる。パンはほとんど音もなく沈み、卵の甘さとマヨネーズの酸味が舌へ広がった。硬い干しパンに慣れた口には、頼りないほど優しい。それなのに、噛むたび塩気が現れ、きちんと腹へ届く。

「刃物がいらない」

「急ぐ人にも、疲れた人にも便利です」

 シェルファは旅装の鞄へ目を落とした。中には、古い図書塔から預かった白布が入っている。百年に一度の蔵書整理を任され、彼女は三日眠らず目録を作った。それでも一冊の所在が分からず、長老へ報告するのを先延ばしにしていた。

 森では、任されたものを欠けなく返すのが誇りとされる。見つからない一冊を告げるくらいなら、駅で夜を明かそうとすら思っていた。

「このパン、形が崩れたら売れませんか」

「少しくらいなら、自分たちで食べます」

「失敗なのに?」

「食べられるなら、昼ごはんです」

 売店の女性は、端がつぶれたサンドイッチを自分の皿へ載せた。

 シェルファは残りをゆっくり食べた。卵の粒が一つ、包み紙へ落ちる。指先で拾って口へ運ぶと、最初より胡椒の香りが強かった。

 列車が来る前、彼女は長老へ短い伝書を送った。

〈目録は完成。行方不明一冊。帰って皆で探したい〉

 返事はすぐだった。

〈席を空けて待つ。夜食もある〉

 シェルファは白い包み紙を丁寧に畳んだ。完璧な三角形には戻らなかったが、掌には卵とパンの柔らかな温度が残っていた。