白手袋についた青い粉
祝福薬工房の朝礼で、班長ドロテア・クラムは、助手エルナ・ヴェイの両手を高く掲げさせた。
白い手袋の指先に、青い粉が付着している。封はドロテアの目の前で切られ、替えを頼んだエルナは〈班長を疑うのか〉と皆の前で笑われていた。
「禁制の眠り茸よ。王女殿下の薬へ混ぜるつもりだったのね」
職人たちがざわめいた。ドロテアは毎朝エルナだけに床磨きをさせ、失敗作を頭から浴びせて笑っていた。今日は彼女の作業台へ青い小瓶を置き、衛兵まで呼んでいた。
「違います。この手袋は、班長が今朝くださったものです」
「恩を仇で返すの? 私が新品を与えた証拠でもあるのかしら」
ドロテアは胸を張り、薬品庫の鍵束を鳴らした。
「眠り茸の保管箱を開けられるのは班長である私だけ。だからこそ、あなたが鍵を盗んだのでしょう」
ちょうどそこへ、王立薬務監査官が入ってきた。王女用の薬を作る日は、材料の抜き打ち検査が行われる。
監査官はエルナの手袋へ月光石を近づけた。青い粉の中から、細かな銀文字が浮かぶ。
〈試験番号四一七・班長室保管〉
「これは眠り茸ではありません。盗難対策用の追跡粉です」
一粒ごとに、保管場所と持ち出した者の魔力紋が刻まれている。粉はドロテアの私室にだけ置かれ、一般の薬品庫にはないものだった。
「そ、それをこの女が――」
「持ち出し帳を確認しましょう」
監査官が帳面を開く。今朝の欄には、ドロテア自身の署名があった。
〈新人の手袋へ塗布。盗難訓練のため〉
訓練なら事前申請が必要だが、その欄は空白だった。しかもドロテアは、エルナを犯人として告発する書類に、つい先ほど責任者印を押している。
監査官が尋ねた。
「あなたは、無許可で追跡粉を持ち出し、部下の手袋へ塗り、禁制薬物だと偽って衛兵を呼んだ。それで間違いありませんね」
「ち、違う、少し怖がらせれば辞めると思って――」
言い終えてから、ドロテアは自分の口を押さえた。
衛兵隊長が告発書を裏返し、王家の逮捕印を押した。
「ドロテア・クラム。薬品不正使用および虚偽告発の罪で、逮捕を命じる」