百二十回洗ったシャツ

白砂野凌雅は、いつも同じ白いシャツを着ていた。

襟は少し柔らかく、袖には細い補修跡がある。野鹿谷智駿はそれを見るたび、教室で値札の話をした。

「俺のは限定品。凌雅のは量販店の三枚組だろ?」

凌雅は否定しなかった。

学校祭のファッションショーで、智駿は父に買ってもらった海外ブランドのジャケットを着て、モデル役を独占した。凌雅には舞台裏の衣装整理を押しつける。

「服が分からない人は、畳んでればいいよ」

開演直前、スポンサー企業の代表が到着した。国内最大のアパレル会社〈シラサゴ〉の会長だった。智駿が愛用する限定品も、その企業が買収したブランドの商品である。

会長は舞台裏へ入ると、凌雅のシャツを手に取った。

「百二十回目の洗濯でも、襟は持ったか」

「縫い糸だけ変えたほうがいい。僕が自分で補修した箇所は平気だった」

凌雅は会長の孫で、創業家の一人息子だった。高校入学から、長く着られる制服素材の耐久試験を自分で続けていた。家族は豪邸も社用車も持っていたが、衣服を使い捨てにしないことを社是にしていた。

智駿は笑顔を作った。

「でも、凌雅は会社で何もしてないだろ?」

会長が新商品発表資料を配る。表紙には、凌雅が考案した再生繊維の特許番号と、開発責任者として彼の名があった。販売契約は海外二十か国、初年度のロイヤルティだけで億を超える。

さらに審査員が智駿のジャケットへ近づき、首をかしげた。

「これは正規品ではありません。縫製番号が存在しません」

智駿は父から本物だと聞いたと叫んだが、会長は静かにタグを確認した。

「白砂野家の会社を名乗る偽物だね」

ショーの主役衣装は急きょ、凌雅の白いシャツへ変更された。照明の下で見ると、補修跡は一本の意匠のように美しかった。

司会者が〈百二十回洗っても着られる未来の制服〉と紹介し、凌雅を開発者として中央へ呼ぶ。

智駿の偽ブランドが舞台から下げられた瞬間、最も安く見えた一枚が、会場で最も価値のある服になった。