石化しかけの庭師に緑の軟膏

薬草店《若葉の窓》の朝は、土の匂いから始まる。

店主ナディアが鉢植えへ水をやっていると、扉を肘で押し開ける老人がいた。王宮庭師のジオラである。両手を厚い布で巻き、額には脂汗が浮いていた。

「石蛇草に刺された」

布を解くと、右手の指先から灰色の石化が進んでいた。もう第二関節まで硬い。

「治癒院では切り落とせと言われた。だが明朝、百年に一度咲く王妃薔薇を剪定せねばならん。あれはわしの手でなければ枯れる」

その薔薇は、亡き王妃が平民だった頃に植えたものだという。ジオラは即位の日から、毎朝同じ枝を見守ってきた。

ナディアは傷を一目見て、緑色の小壺を出した。

「樹脈軟膏。塗る方向を間違えると、本当に石になります」

「脅すな」

「脅しではなく説明です。指先から心臓へではなく、心臓から指先へ。植物の樹液を枝先へ送るように擦ってください」

ジオラは左手も震え始めていた。ナディアは許可を取り、彼の手首へ軟膏を置く。若草と雨上がりの匂いが広がった。

手首から指先へ、ゆっくり三度。

灰色の石肌に緑の線が走り、ぱき、ぱき、と薄い殻が割れた。壺の中で薬草の葉が一斉に開き、店内へ春の匂いが満ちる。石の欠片が床へ落ちる。その下から、節くれだった人の指が現れた。

ジオラは無言で親指を曲げ、人差し指を曲げた。

次に、ナディアの棚にあった枯れかけの小枝を摘まむ。硬すぎず、柔らかすぎず、刃物を扱う庭師の力加減だった。

「戻った……」

声が震えたのは痛みのせいではない。

ナディアは残った軟膏の蓋を閉めた。

「今夜もう一度。明朝には剪定鋏を握れます。ただし石蛇草には革手袋を」

「五十年庭師をして、若造に叱られるとはな」

「私は薬師です」

ジオラは初めて笑った。銀貨を規定の三倍置き、小壺を胸へ抱える。

「王妃薔薇が咲いたら、最初の一輪を店先へ持ってくる。代金とは別だ」

「花は売れませんよ」

「店の看板にはなる」

老人が去ったあと、ナディアは床の石片を箒で集めた。最後の一片を塵取りへ入れたところで、店先へ薔薇の香りが流れ込む。

ちりん。

まだ一輪も届いていないのに、次の客が扉を開けた。