破れたオムレツ
依都が卵を巻くのは、三年ぶりだった。
元恋人は、彼女の料理を食べる前に形を見た。
「こういうところに性格が出るよね。雑な人は味も雑」
最初は冗談だと思って笑った。けれど卵焼きの端が裂けるたび、餃子のひだが揃わないたび、依都は先に自分から「失敗した」と言うようになった。別れて一人になってからは、失敗する余地のない冷凍食品ばかり選んだ。
日曜の昼、賞味期限の近い卵が三つ残っていた。捨てる理由を探すより早く、依都はボウルに割った。牛乳を少し入れ、塩を振る。フライパンの縁でバターが泡立ち、久しぶりの匂いが台所に広がった。
半熟の卵を折ろうとした瞬間、真ん中が大きく破れた。黄色い中身が裂け目から流れ、皿に移すと、オムレツというより崩れた布団に見えた。
依都は反射的にごみ箱の蓋を開けた。
以前なら、ここで捨てていた。誰も食べないのに、失敗したものを残すことは、失敗した自分を食卓に置くことと同じに思えたからだ。
菜箸で持ち上げかけた卵を、依都は皿へ戻した。ごみ箱の蓋を閉める。ケチャップを細く絞るつもりが、最初の一滴が丸く落ちた。もう整えなかった。
窓辺の小さなテーブルで一口食べる。端は焼けすぎていて、中は少しぬるい。塩も足りない。けれどバターの甘い匂いはちゃんと残っていた。
写真は撮らなかった。誰かに「これでも食べられるよ」と言ってもらう必要もなかった。
食べながら、依都は形のよい料理を検索しそうになった。画面に並ぶ滑らかな黄色と、自分の皿を見比べれば、また食欲を失える。スマホを取らず、代わりに湯を沸かした。ケトルが鳴るまでの間、破れた部分から湯気が細く上がった。誰かに出す料理ではないのだから、見栄えの悪さを隠す必要もなかった。
半分ほど食べたところで、依都は醤油を一滴足した。味が急によくなったわけではない。ただ、自分の昼食として続きを食べた。
空いた皿には、ケチャップの丸い跡だけが残った。依都はそれを失敗の印にせず、食器用スポンジで普通に洗い流した。