祖母の砂時計

祖母の綾乃は、紅茶を淹れるとき三分の砂時計を使う。

湯を注ぎ、硝子の筒を返す。砂が全部落ちるまで蓋を開けない。

孫の帆乃香は、その三分が長くて仕方なかった。大学の課題、アルバイトの連絡、友人からのメッセージ。待っている間にも画面を何度も見る。

「そんなに急いで、どこへ行くの」

「どこにも行かないけど、時間がないの」

綾乃は笑い、砂を眺めた。

ある午後、帆乃香のスマートフォンが壊れた。修理が終わるまで二時間。連絡も調べ物もできず、祖母の家へ寄った。

紅茶を頼むと、いつもの砂時計が返された。

砂は上から下へ、細い筋になって落ちる。途中で少し詰まり、綾乃が指で軽く叩いた。

「これも止まるんだ」

「止まったら叩けばいい」

三分後、二人で紅茶を飲んだ。乾燥させた林檎が入っていて、甘い香りがした。

綾乃は若い頃、電話交換手だった。待たせてはいけない仕事で、帰宅すると砂時計を眺めるようになったという。

「急ぐ時間と、待つ時間は別なの」

修理店から連絡が来るはずもなく、帆乃香は二杯目を頼んだ。今度は自分で湯を注ぎ、砂時計を返す。

砂が落ちる間、庭の鳥を見た。遠くで洗濯機が止まる音がした。

スマートフォンを受け取ったあとも、帆乃香は林檎紅茶を買って帰った。自宅では三分を時計で測らず、湯気の香りが少し丸くなるまで待つ。祖母の硝子の中で落ちた砂の温度を思い出しながら。

綾乃は誕生日に、新しい砂時計を帆乃香から贈られた。砂は薄い桃色で、古いものより二秒ほど早く落ちきる。二つを同時に返し、どちらが先か眺めた。古い砂は途中で一度詰まり、綾乃が指で叩く。新しいほうは滑らかに終わったが、紅茶の蓋は古い砂が落ちるまで開けなかった。「二秒、濃くなるよ」と帆乃香が言う。「今日はそれでいい」と祖母が答える。林檎の湯気の中、待つ時間にも二人分の速さがあった。

春には桃色の砂時計も、ときどき詰まるようになった。帆乃香は綾乃の真似で指を一度鳴らす。二つの硝子が少しずれて終わる頃、紅茶は二人に同じ濃さで香った。