空になった洗濯かご

早苗の最後の誕生日は、朝から雨だった。

窓に細い水筋が増えるたび、亘は「今日は何もしなくていい」と言った。けれど部屋の隅には、乾燥機から出したままの洗濯物が山になっている。タオル、下着、黒いTシャツ、片方だけ裏返った靴下。誕生日らしいものは、テーブルの上の小さな箱だけだった。亘が朝から何度も視線を送るので、中身が新しい部屋着だと早苗には分かっていた。入院中でも着られるよう、前開きのものを選んだのだろう。開ければ礼を言わなければならない。いまはまず、山になった布を平らにしたかった。

早苗は箱を開けず、洗濯かごを膝の前へ引き寄せた。

「それくらい俺がやる」

「あなた、タオルを縦に畳むから」

「入れば同じだろ」

「入るかどうかの話じゃないの」

声を張ると胸が痛むので、最後は息だけになった。亘は反論をやめ、床に座って靴下を探し始めた。

早苗はタオルの端を合わせた。横に二つ、さらに三つ。洗面所の棚にちょうど入る大きさになる。亘は何年一緒にいても、そこを覚えなかった。覚えないというより、棚からはみ出したら押し込めばいいと思っている。

黒いTシャツには、去年の夏祭りで飛んだソースの薄い染みが残っていた。亘が捨てようとするたび、部屋着になる、と早苗が止めてきた。今日は何も言わず、いつもの四角に畳む。

赤い靴下が一足、出てきた。入院の日に早苗が履いていき、看護師に派手だと笑われたものだ。片方のかかとは薄くなっている。

「これは?」

亘が尋ねる。

早苗は少し考えてから、二枚を重ねた。

「まだ履ける」

亘はうなずき、靴下の山の上に置いた。

途中で腕が止まり、早苗は背中をソファに預けた。雨音のほかは、布が擦れる音しかしない。亘は手を出さず、裏返った袖だけを表に返して、早苗の前へ寄せた。

最後に残ったのは、白い枕カバーだった。角と角を合わせても、途中がふくらんで逃げる。早苗は笑いそうになり、咳に変わった。亘が端を一つ持つ。二人で引くと布はまっすぐになった。

早苗はそれを半分にし、もう半分に折った。タオルの上、Tシャツの横、靴下の手前。全部がそれぞれの場所に収まる形になった。

彼女は空になった洗濯かごを伏せた。