窓際の欠けた集合写真
同窓会の受付に飾られた集合写真は、右上だけ不自然に白かった。
芙由子はすぐに気づいた。三年二組の窓際、最後列の端。本来そこには澪花がいた。卒業式の一週間前に学校へ来なくなり、式にも出ず、誰も理由を知らないまま転居した友人だ。
写真の原本を持っているのは芙由子だった。卒業アルバム委員だったからではない。あの日、澪花の顔だけを鋏で切り取ったからだ。
「何も言わずにいなくなる人なんか、友達じゃない」
放課後の教室でそう呟き、切り抜きを窓から捨てた。風に戻された小さな顔は、窓枠に一度貼りついてから中庭へ落ちた。拾いには行かなかった。
二十八歳になった芙由子は、連絡を返さない側になっていた。仕事を休職して三か月。元気になったら会おう、と届くメッセージを開けず、通知だけを消した。説明する言葉がないことを、今なら知っている。
会場では昔の席順に椅子が並べられていた。芙由子の隣だけ空席で、幹事が「澪花、住所不明だった」と残念そうに言った。その言い方に責める色はなかった。
芙由子はバッグから、自宅の箱で見つけた写真を出した。欠けた角は、十年たっても鋭いままだった。裏には澪花の字で「窓際は寒い。でも芙由子がいるから平気」とある。撮影前に回された寄せ書きだった。
胸が痛んだのは、戻れないからではない。戻れない時間にも、自分が知らなかった事情があったと認めるのが遅すぎたからだ。
集合写真を撮り直す声がかかった。芙由子は昔の窓際に立った。隣へ誰も来ないうちに一歩だけ横へずれ、空白を残す。
撮影後、その新しい写真を同窓会の公開ページに載せた。説明文には、澪花の名も、自分の謝罪も書かなかった。ただ、連絡先欄を誰でも見られる設定に変えた。
ホテルを出ると、未読のままだった友人たちのメッセージを一つずつ開いた。返信は短くていい。
「今はうまく話せない。でも、消えたわけじゃない」
送信すると、画面の中の空白は、責めるためではなく待つための場所になった。