答案石の裏側
王立魔法学院の臨時審問で、奨学生シェルナ・リュートの鞄から、封印された実技試験の答案石が出てきた。
「試験前に盗み見たから、首席を取れたのだ」
実技主任ドラガス・ケルンは石を掲げた。昨夜、保管庫から一つ消えたものと封印番号も一致している。
「平民が公爵家の子息を上回るなど、おかしいと思っていた。退学だけで済めば温情だ」
教員席から冷たい同意が漏れる。ドラガスは自ら作成した盗難報告へ署名し、胸を張った。
シェルナは石を受け取らず、ただ尋ねた。
「主任は、これを間違いなく保管庫の答案石だと保証なさいますか」
「私が作り、私が封じた。見間違えるものか」
「では、裏側もご覧ください」
答案石は不正交換を防ぐため、最後に触れた三人の魔力紋を裏面へ沈める。普段は黒く見えるが、審問官の白炎にかざせば順番まで現れる仕組みだ。ドラガス自身が導入し、規則書にも署名していた。
白炎がともる。
最初は製作官。次は封印官。そして最後は、昨夜零時十三分のドラガス。
シェルナの魔力紋はどこにもない。
「私が封じたのだから残って当然だ!」
「封印時の紋は二番目です」
審問官が指す。最後の紋には〈再接触・封印解除後〉の赤い輪がついていた。
さらに石が、触れられた際の短い音声を再生した。
『これをあの奨学生の鞄へ入れろ。首席は侯爵家へ戻す』
ドラガスが昨夜、助手へ命じた声だった。答案石の記録機能を忘れたのではない。自分が作った規則なら、自分だけは例外だと思っていたのだ。
学院長が盗難報告を破棄し、別の羊皮紙を開く。
ドラガスは以前から、平民の成績を貴族へ付け替えていた。だが今回、シェルナの答案を消そうとしても、採点台には彼女の術式だけが鮮やかに残った。審問席の公爵子息本人が立ち上がり、「盗んだ首席など要らない」と、自分へ差し替えられた成績札を机へ返した。教員たちは初めて、シェルナを奨学生ではなく首席として見た。
「実技主任ドラガス・ケルン。職位剥奪ならびに学院永久追放を、ここに命ずる」