終業ベルの外側

終業式が終わると、袋井千里は通知表を頭の上に掲げた。

「自由!」

体育館から教室へ戻る列の途中で叫んだので、担任に「まだ校内だ」とたしなめられた。千里は舌を出し、僕の背中を小突いた。

「校門を出た瞬間に、もう一回やるからね」

教室では、先生が夏休みの注意を読み上げていた。水難事故、交通事故、生活リズム。黒板の隅には大きく「九月一日、全員元気に」と書かれている。千里は聞いているふりをしながら、机の下で髪をほどいた。いつも二つに結ばれている髪が肩へ落ち、それだけで知らない人のように見えた。

「どうしたの」

「夏休み仕様」

そう言って笑う。けれど千里の夏休みは、自由とは程遠い。毎朝六時から家の店を手伝い、午後は塾、夜は弟の世話。八月の予定を聞いたとき、「空欄は睡眠」と答えていた。

最後のホームルームが終わる。終業のチャイムはいつもと同じ長さなのに、その日だけ校舎の外まで響いた気がした。椅子が一斉に鳴り、教室が破裂したみたいにみんなが飛び出した。僕と千里も昇降口まで走った。上履きを袋へ押し込み、外靴のかかとを踏んだまま、坂を下る。

校門の白い線を越えたところで、千里は急に立ち止まった。

僕も止まる。背後から来た連中が「邪魔!」と笑いながら追い越していく。空は、まだ午前なのに夕方まで続きそうな青だった。

千里は通知表をもう一度掲げた。

「自由!」

さっきより小さな声だった。

僕は鞄から、二本入りの棒アイスを出した。朝、母に持たされ、すでに少し柔らかくなっている。

「駅前までの十五分なら、空欄だろ」

千里は目を丸くしてから、一本を奪った。

「二十分。遠回りする」

僕らは自転車を押して歩いた。アイスはすぐに溶け、手首まで垂れた。千里は明日の塾を愚痴り、僕は宿題の多さを罵った。何も解決していないのに、校舎が見えなくなるころには、本当に自由になった気がした。

夏休みとは、四十日間のことではない。

あの年の僕らには、アイスが溶けきるまでの二十分だった。