緑色の同席者
建築家の瀬々良は、設計スタジオを内側から施錠してオンライン審査会へ出た。開始十二分後、模型を取るため席を立ち、画面外で短い悲鳴を上げた。接続は切れ、警備員が非常鍵で入ると、瀬々良は絞殺されていた。扉は閉まれば自動施錠、窓は嵌め殺し。会議映像には、入室から悲鳴まで瀬々良以外の人影がない。
容疑者は、助手の緑埜、出資者の安房、撮影監督の宮守。三人とも審査会に参加し、瀬々良が不正な設計変更を公表すれば困る立場だった。緑埜と安房は遠方から映像を出し、宮守だけは同じ建物の編集室から音声参加していた。
審査会では、瀬々良が模型の耐震偽装を誰の指示で行ったかを発表する予定だった。安房は資金提供を打ち切ると脅し、緑埜は設計図の責任を押し返し、宮守は映像記録そのものが編集されたと主張した。スタジオは広告撮影にも使われるため、壁一面に仮想都市の背景が合成されていた。
私は瀬々良の録画背景を止めた。手掛かりは三つだけだった。
第一に、緑色の椅子の縁が、瀬々良の肩に重なるたび背景画像へ溶けて欠けた。
第二に、会議設定は通常の背景ぼかしではなく、緑を透明化する「クロマキー固定」になっていた。
第三に、撮影倉庫から、人物を丸ごと消すための緑色全身衣装が一着なくなり、貸出票には宮守の署名があった。
安房は「そんな衣装で、ずっと背後に?」と声を震わせた。スタジオの壁も床も撮影用の緑幕で統一されていた。
「宮守は会議前から室内にいた」私は言った。全身衣装を着て緑幕の前へ立てば、ソフトは人物ごと背景画像に置き換える。瀬々良が模型へ向かい、カメラに背を向けた瞬間だけ襲えば、凶器も姿も映らない。宮守は接続が切れた後に出て、扉を閉めた。自動錠が密室を作る。椅子の欠けは色抜きの存在を、設定は消失原理を、貸出票は中に潜めた人物を示している。画面に誰も見えないことは、誰もいなかった証明ではなかった。 色を消す機能が、人の存在まで消したのである。