美化報告書_拾った人特定できず
美化報告書――拾った人、特定できず
【月曜日】
校庭のごみ、通常の三分の一。
担当職員が清掃前に確認したところ、紙くず七点、空き容器三点がすでに処分されていた。
拾得者、不明。
【火曜日】
中庭、階段、体育館裏のごみが減少。
生徒会より昼の放送。
〈校内美化に協力してくれた人は、生徒会室まで申し出てください。表彰を検討します〉
申出者、零名。
ただし放課後、生徒会室前のごみ箱が満杯になっていた。中身は、校内各所から拾われたと思われる小さなごみばかりだった。
【水曜日】
防犯カメラを確認。
午前七時四十一分、一年生男子が階段の飴の包みを拾う。
七時四十三分、三年生女子が男子の行動を見たあと、植え込みのペットボトルを拾う。
七時四十八分、教員一名が二人を見て、昇降口の紙片を拾う。
以降、記録範囲だけで四十二名。
特定困難。
【木曜日】
現在療養中の清掃員から学校へ電話あり。
「自分が休んでいるせいで、生徒に掃除をさせているのではないか」と心配していた。
校長が事情を説明すると、しばらく無言。
その後、「戻る仕事がなくなりますね」と笑った。
清掃員は入院前、毎朝一時間早く来ていた。生徒が登校するころには、ごみを拾った事実まで片づけ終えていたという。
【金曜日】
全校集会にて生徒会が調査結果を報告。
表彰対象を決めるため、最初にごみを拾った一年生男子を壇上へ呼ぼうとしたが、本人は辞退。
理由。
「僕も、先週まで清掃員さんが拾うところを見ていました。最初はあの人です」
三年生女子も発言。
「でも、その人も誰かから始めたかもしれません」
協議の結果、表彰は中止。
代わりに、全校生徒へ提案。
〈気づいた人が一つだけ拾う。拾ったことは報告しない〉
賛成多数。
【三週間後】
清掃員、復帰。
朝、校門を入ると、生徒たちは普段どおり話しながら歩いていた。誰も歓迎の列を作らず、拍手もしなかった。
ただ、一人が足元の紙くずを拾った。
その姿を見た別の一人が、空き容器を拾った。
清掃員は手にしていた大きなごみ袋を折り畳み、胸ポケットへ入れた。代わりに小さな袋を一枚だけ取り出し、生徒たちと同じように、ごみを一つ拾った。
【最終所見】
拾った人は特定できない。
親切が、誰のものか分からなくなるほど広がったためである。