肌に触れる番号
白石絃のヘッドセットに、最初のクレームが入ったのは、化粧品会社の相談窓口へ配属されて十二日目だった。
「美容液を使ったら、頬が真っ赤になったんです。公式サイトで買ったのに」
絃は研修どおり、使用を中止し、必要なら医療機関へ相談してほしいと伝えた。返金の案内へ進もうとして、聞き取った製造番号に指が止まる。
「七、F、二三でお間違いないでしょうか」
その番号は乳液のものだった。美容液は必ず九から始まる。顧客が読み違えた可能性もある。隣の先輩は「写真を送ってもらって、個別不良で処理」とメモを見せた。
届いた写真には、美容液の外箱と、乳液の番号が印字された容器。しかもポンプの首に、返品検品済みを示す小さな青い点があった。顧客は「私が注文を間違えたんでしょうか」と尋ねた。絃は注文履歴を確認し、「ご注文は美容液です。お客様の選択違いではありません」と答えた。
絃は倉庫履歴を開く。前週、破損箱から中身を救済して再梱包した作業が十七件。商品名の似た二種類が、同じ台に置かれていた。
一人への返金だけでは足りない。
「品質管理へつなぎます。同じ作業分の出荷を止めてください」
先輩が眉を上げた。「まだ一本だけよ。大ごとにすると、倉庫が全部止まる」
「肌に触れてからでは、一本ずつ確認できません」
絃は顧客に、原因を断定せず、回収と受診費用の窓口を案内した。電話の最後、相手の声はまだ硬かったが、「番号を聞いてくれてよかった」と小さく言った。絃は折り返し時刻も約束し、言いっぱなしにしないよう相談票の上部へアラームを設定した。
通話を切ると、品質管理から同一作業分の隔離完了が届いた。倉庫では十七件のうち五件が未出荷で止まり、発送済みの十二件には確認連絡が始まった。絃は相談票の最上段に、商品名だけでなく「外箱番号・容器番号・返品印」の三項目を追加した修正版を作る。
承認欄には、課長の名ではなく自分の名を入れた。
次の着信ランプが点滅する。先輩が「代わろうか」と聞いた。
絃は修正版を共有フォルダへ提出し、ヘッドセットをかけ直した。
「大丈夫です。次のご相談も、番号から確認します」