脚の短い食卓

 城戸蒼馬は、父が社宅を出る日にだけ手伝うと決めていた。荷物は軽トラック一台ぶん。運ぶ先は狭い賃貸、捨てる先は市の処分場。話すことは少ないはずだった。

「これは粗大ごみでいいな」

 父の卓蔵が指したのは、四人掛けの食卓だった。母が出ていってから十年、二人で向かい合った回数は片手で足りる。一本の脚がぐらつき、天板の角には父が拳を落とした古いへこみがある。

「直せる」

「捨てる物に時間かけるな」

「直せるって言ってんだよ」

 蒼馬は工具箱を開いた。脚を外すと、ほぞが痩せていた。木片を薄く削って噛ませる。卓蔵は黙って反対側を支えた。

「そこ、押さえすぎ」

「お前が力を入れなさすぎだ」

「家具は殴って直らない」

「……そうだな」

 謝罪にしては短く、認めるには遅すぎた。蒼馬は顔を上げなかった。へこみを紙やすりで均すか迷い、結局そこだけ残した。消せば新品に近づくが、なかったことにはならない。

 卓蔵が接着剤を塗りすぎた。蒼馬は濡れ布巾で拭う。昔、工作の宿題を一緒にした夜も、父は同じ失敗をした。あの頃の記憶まで許す気はない。それでも手順だけは身体が覚えていた。

 乾くまで二人で床に座った。卓蔵は缶コーヒーを一本だけ買っていたことに気づき、蓋を開けず蒼馬へ寄こした。

「半分飲むか」

「缶は半分にできない」

「じゃあお前が飲め」

 接着剤が固まり、食卓は四本の脚で立った。わずかに一方が短い。蒼馬がフェルトを二枚重ねると、揺れは止まった。

「で、処分場はどっちだ」

 卓蔵が助手席で訊いた。

 蒼馬は軽トラックのナビに住所を入れた。処分場とは逆方向だった。

「俺の部屋。四階」

「置く場所あるのか」

「作る。運ぶのは手伝えよ」

 卓蔵は返事の代わりに、食卓と椅子を二脚だけ荷台へ積んだ。残りの二脚には処分の札を貼る。向かい合うには、それで足りる。

 食卓の脚が傷まないよう、古い毛布をもう一枚かぶせ、荷台のロープを締め直した。