臨時株主総会_社員食堂にて
臨時株主総会、社員食堂にて
【議題】
母の死去に伴う、家族経営の調味料会社の経営権について。
【株主】
長女、四十パーセント。
長男、四十パーセント。
次男、二十パーセント。
【第一号議案】
工場敷地を食品大手へ売却し、会社を清算する。
提案者、長女。
「借金を返しても、全員に十分残る。従業員には退職金も出せる」
長男、反対。
「母さんの味を売るのか」
「味じゃなく、土地を売るの」
「同じだ」
【第二号議案】
現状のまま長男を社長とし、事業継続。
提案者、長男。
次男、反対。
「工場の機械は限界。兄さんは売上の悪い月を家族へ隠してた。母さんと同じやり方になる」
「現場しか知らないお前に経営が分かるか」
「現場を知らない社長よりは分かる」
会議は、子どものころの成績や、母の葬儀で誰が遅刻したかにまで及んだ。
社員食堂の扉が開いた。
従業員代表が、辞表の束を机へ置いた。
「皆さんが誰の味方か選べと言うなら、全員辞めます」
「誰もそんなことは」
「長女派、長男派、次男派と呼ばれ始めています。家族喧嘩の中で働けません」
長女は売却資料を閉じた。
長男は社長就任案を伏せた。
次男は初めて、従業員の顔を見た。
【休憩】
社員食堂の味噌汁を三人で飲む。
母が工場へ出る日は、必ずここで昼食を食べた。家では子どもに厳しかった母が、従業員には名前で礼を言っていた。
「会社を家族の形見だと思ってた」
長男が言った。
「私は、家族から逃げる金にしたかった」
長女が認めた。
「僕は、二人を追い出して現場の会社にしたかった」
次男も言った。
【修正動議】
一、遊休地だけを売却し、設備更新費と退職希望者の補償へ充てる。
二、社長は家族外から公募する。
三、三きょうだいは取締役へ自動就任しない。
四、家族の持株は、従業員持株会へ段階的に一部譲渡する。
五、家庭の争いを会社へ持ち込んだ場合、社員食堂の皿洗い十回。
賛成、三。
【付記】
長男は最後の項目へ異議を唱えたが、すでに三人分の食器が流しへ置かれていたため却下。
会社は、母の子どもたちだけのものではなくなった。
三人は経営権を少し失い、ようやく家族として話せる余地を得た。