花嫁が笑うまで

披露宴の終盤、八尋梢は会場裏の小部屋で、同日上映用の映像をつないでいた。新郎からの依頼は一つ。「父と入場したとき、花嫁が振り返って笑った瞬間を必ず入れてください」。

ところが、カメラ担当から渡された素材には、その場面が見当たらなかった。入場前の扉、歩き出す父娘、次はもう高砂の前。上映まで四十五分だった。

撮影者は青ざめて「記録ボタンを押し忘れたかも」と言った。梢はカードを責めず、コピー中のフォルダを開いた。連番は途中で途切れていない。代わりに、同じ名前の小さなファイルが別の場所に並んでいた。編集を軽くするため自動生成されたプロキシで、元映像のコピーだけがまだ終わっていなかったのだ。

梢はプロキシを再生した。父が歩幅を緩め、花嫁が客席ではなく父を見上げて笑う。探していた二秒があった。

しかも、その直前には父が娘の裾を踏まないよう、半歩だけ離れる姿も残っていた。会場で誰も注目しなかった小さな動きだった。梢は笑顔だけを切り取らず、父の半歩から三秒使うことにした。新郎の依頼どおりの顔を入れながら、なぜ花嫁が振り返ったのかまで分かる。急ぐほど、欲しい瞬間だけを短く抜きたくなるが、それでは表情の理由が消える。

先にその軽い映像で、使う始まりと終わりを決め、全体の構成を仕上げた。だが、そのまま上映用にすれば画質が荒い。コピーの進み具合を見ながら、最後の書き出し直前に元映像へリリンクする手順へ変えた。念のため、入場場面だけは別ファイルでも保存した。途中で接続が切れれば、全編をやり直す危険があったからだ。

上映五分前、元映像がつながった。画面いっぱいに花嫁の笑顔が現れ、すぐ後ろで父が視線を落とした。

会場から拍手が湧いたとき、梢は小部屋の扉を少しだけ開けた。新郎はスクリーンではなく、隣で泣く妻を見ていた。

上映が終わる前に、スタッフが次のカードを差し出した。

「二次会のオープニングも、今夜中だそうです」

梢は受け取り、また最初の一枚を開いた。