花嫁の名簿
「炎上してるんだけど。喜多見さん、何とかして」
八代瑠胡はスマートフォンを私の机へ滑らせた。
投稿されていたのは、来月挙式する人気俳優夫妻の席次表だった。親族の本名、子どもの食物アレルギー、警備導線まで映っている。投稿者は瑠胡の非公開アカウント。画面の端には〈極秘婚礼の裏側、特別公開〉という文字が踊っていた。
「どうして撮影したんですか」
「フォロワー向けの仕事。削除したから平気でしょ」
「スクリーンショットが拡散されています」
「だったらあなたが謝って。母に言えば、担当を外せるんだから」
瑠胡の母は営業担当取締役だった。娘は昼過ぎに出社し、試食だけ参加して、面倒な調整は私へ投げる。それでも社内報では〈若き天才プランナー〉だった。
私は謝罪文ではなく、流出経路と閲覧履歴をまとめた。警備会社へ連絡し、式場と宿泊先を変更し、招待客全員へ個別説明をした。深夜までに百八十通の返信が届いた。怒りの文面も多かったが、最後には「あなたが担当なら出席する」と書いてくれた親族がいた。瑠胡はその間、投稿の反応数を数え、炎上を利用した謝罪動画の衣装を選んでいた。
翌朝、俳優夫妻の代理人が緊急会議に現れた。
八代取締役は先に頭を下げた。
「担当者の喜多見が管理を怠りまして」
代理人は封筒から契約書を出した。
「喜多見さんは昨夜、百八十名へ一人で対応しました。問題は、御社が守秘義務違反を役員案件として隠そうとしたことです」
続いて監査役が、八代取締役の交際費と、娘名義の架空外注費を示した。取締役会はすでに母親の解任を決議していた。
瑠胡はなおも笑った。
「でも、この案件は私の名前で受注してるよね?」
新郎がオンライン画面に現れた。
「違います。僕たちは喜多見絢音さんに式を任せたんです。彼女が残るなら契約を続けます」
人事部長が瑠胡の前へタブレットを置いた。表示は〈守秘義務違反および虚偽申告による懲戒解雇〉。
同時に社内チャットが鳴り、八代瑠胡の名前から〈管理者〉の王冠が消えた。