花柄のパジャマは眠らない

風呂から戻ると、凪穂の布団の上に花柄のパジャマが置かれていた。

薄い水色に、小さな苺が散っている。高校の修学旅行にも持たされたものだ。胸元のリボンは片方だけ長く、袖口には母が縫った白い糸が残っていた。

「懐かしいでしょう。まだ着られるんじゃない?」

襖の外から母が言った。

凪穂は返事をせず、持ってきた黒いTシャツを旅行鞄から出した。明日は従妹の結婚式で、今夜だけ実家に泊まる。母は昼から、昔より髪が短い、頬が痩せた、口紅が濃いと、確認するように言い続けていた。

「それ、せっかく取っておいたのに」

いつの間にか母が襖を開け、黒いTシャツを見ていた。

「寝るだけなんだから、かわいいほうを着なさい。写真も撮るかもしれないし」

「寝てる写真は撮らないで」

「冗談よ。凪ちゃんはすぐ真に受ける」

その呼び名を聞くと、身体の輪郭まで母の記憶に合わせられる気がした。

凪穂は花柄の上下を持ち上げた。布は驚くほど軽かった。捨てられないほど大切なものなら母のものだし、着なければならないものなら自分のものではない。

部屋の隅にあった空き箱を引き寄せ、パジャマを畳まず入れた。蓋に油性ペンで「処分は持ち主が決める」と書く。

「何それ。お母さんに捨てろってこと?」

「違う。お母さんが残したいなら残していい。でも、私に着せないで」

母は唇を結んだ。「親が用意したものを、そんな言い方しなくても」

凪穂は黒いTシャツに頭を通した。

「次に帰るときは、駅前のホテルに泊まるね。会わないってことじゃない。寝る場所を自分で決めるってこと」

鏡には、飾りのない自分が映った。母は箱を見下ろし、やがて襖を半分だけ閉めた。

「明日、七時には起きなさいよ」

「八時に起きる」

母は箱の蓋を閉めず、苺柄の袖を撫でた。『ホテルなんてお金がもったいない』と言うので、凪穂は『眠る場所を選ぶためのお金なら、もったいなくない』と答えた。母は反論せず、箱を自分の部屋へ運んだ。昔の服が、初めて凪穂の寝床から離れていった。

凪穂は旅行鞄のファスナーを閉め、小さな南京錠の数字を、自分の誕生日ではない番号に合わせた。