落ちる距離を畳む配達娘

山岳都市の配達娘メイファは、荷車より遅いと笑われていた。

彼女の職業は《小包運び》。収納枠に剣も薬も入らず、入るのは「道」だけだったからだ。

【固有スキル《経路収納》:指定した二点を結ぶ運搬経路を一枠に格納できる】

石畳の道をしまえば、地図からその線が一時的に消える。だが本人も通れなくなるため、配達には何の得もない。商会長は鑑定結果を破り捨て、「荷札でも舐めていろ」と最下層の集荷場へ追いやった。

それでもメイファは、雪で消えた山道を毎朝測り直した。足の悪い老人には一番段差の少ない経路を、急病人には一番短い経路を手描きで渡す。配達量の記録には残らない仕事だったが、山の住民だけは彼女の地図を捨てなかった。

その日、王太子を乗せた昇降籠が断崖の途中で止まった。

魔物の爪で主索が切れ、籠は谷底へ落下する。護衛魔術師は上に取り残され、飛行騎士も間に合わない。商会長は王家の荷を請け負った責任を恐れ、メイファを突き飛ばした。

「お前が点検を怠ったことにしろ!」

商会の男たちが責任を押しつけ合う中、メイファだけが崖へ駆けた。落下する籠から、幼い王太子が鉄格子を握っているのが見えた。

谷底まで三百歩。人を収納できないメイファに、籠を止める力もない。

けれど、二点を結ぶ経路なら入る。

上と下を結ぶものが、必ず道である必要はない。

メイファは崖際に膝をつき、片手で昇降台を、もう片方の視線で谷底を指定した。

二点の間にある「落下経路」を荷物として認識する。三百歩の空間が、一本の細長い帯になって収納枠へ畳まれた。

能力を使ったのは一度だけだった。

距離を失った籠は、落ちる途中の姿勢のまま谷底すれすれへ現れた。残っていた半歩だけを落ち、柔らかな苔の上で小さく揺れる。

王太子は無傷で扉を開け、真っ先にメイファを指さした。

「僕の道を運んでくれた人だ」

商会長が弁解を始めるより早く、王家の鑑定板が金色に染まった。

【職業が《小包運び》から《界路圧縮師》へ書き換わりました】