落第魔術師の雷糖マカロン

路地裏の菓子店〈砂糖星〉へ駆け込んできた少女は、扉の取っ手を焦がした。

「ご、ごめんなさい!」

落第寸前の魔術師エルミアの指先から、青い火花が止まらない。魔力が弱いのではない。多すぎて、細かな制御ができないのだ。筆記試験では答案が燃え、実技では測定器が弾けた。それでも学院は結果だけを見て「不器用な無能」と決めつけた。夕刻の再試験で自分の名を一行書けなければ、退学だった。

鞄から出した再試験票は、四隅が焼け落ちていた。欄外には赤字で〈魔力の浪費〉と書かれている。エルミアは魔力を抑えるため、朝から何も使っていない。それでも不安になるたび火花は増え、今では袖口まで焦げていた。強いことを欠点として謝るのは、もう嫌だった。

店主セヴェルは焦げた取っ手を布で押さえながら、薄紫のマカロンを一つ皿に置いた。表面を銀色の砂糖粒が走っている。

「雷糖マカロン。噛んだ人から、余って暴れている魔力だけを吸います」

「全部なくなったら困ります」

「必要な分は残します。菓子は客の腹まで奪いません」

エルミアが恐る恐るかじると、ぱちぱち、と殻の中で小さな雷鳴がした。クリームが舌でほどけるたび、指先の火花が一筋ずつマカロンへ移っていく。最後の一口を飲み込むと、焦げ臭さが消えた。

セヴェルは帳面と羽根ペンを差し出した。

「試してみますか」

エルミアは息を止め、自分の名を書いた。

E、L、M――紙は燃えない。インクは震えず、最後の一画まで青黒く残った。

次に彼女が指を立てると、針ほど細い雷が灯り、狙った砂糖壺だけを一瞬照らして消えた。

「できた」

その声は、泣き声よりも笑い声に近かった。

値札は銅貨六枚。エルミアは銀貨を置き、残りを受け取らなかった。

「再試験の帰りに、箱で買います。先生たちに、これが落第者の魔力だと見せてから」

焼け焦げた取っ手に触れないよう、彼女は両手で丁寧に扉を閉めた。

セヴェルが紙に残った美しい署名を見ていると、ちりん、と次の客を告げるベルが鳴った。