謝罪文の余白

私は、謝られる側だった。

放課後の相談室で、学級委員は便箋を両手に持ち、震える声で読み上げた。

「毎日、机に悪口を書き、階段で突き飛ばし、申し訳ありませんでした」

担任は彼女を睨み、私は包帯を巻いた右腕を胸に抱いた。保健室では外すよう言われたが、傷を見ると息ができなくなる、と断ってある。

便箋の右端には、赤い線が二本引かれていた。彼女が文章を間違えた印だ。けれど赤ペンは担任の机からなくなっており、なぜそこに線があるのか、誰も気にしなかった。私の指に残った赤い染みも、図工の絵の具だと思われていた。

担任は、私の机に残された悪口の写真も並べた。どれも赤い字で「消えろ」と書かれている。私は、彼女が左手で書いて筆跡を変えたのだと説明した。だが写真の隅には、私の鞄から下がる赤ペンの紐が写り込んでいた。

「これで終わりにしたいです」

私は小さく言った。

学級委員は顔を上げた。泣いてはいない。むしろ、何かを待っている目だった。

担任が、謝罪文を預かると言った。私は慌てた。

「私が持って帰ります。もう読み返さないと決めるために」

「証拠だから学校で保管する」

担任は便箋を机に置き、窓のブラインドを閉めた。部屋が暗くなる。次に、机上のライトだけを点け、紙を斜めから照らした。

白い余白に、前の紙を強くなぞった筆圧が浮かび上がった。

――明日は五万円。持ってこなければ、今度こそ階段から落とす。

私の喉が鳴った。

「この字、誰のものか分かる?」

担任が訊く。私は答えず、包帯の端を握った。学級委員が初めて口を開いた。

「昨日、言われた通りに自分で転びました。でも、次は妹を落とすって」

相談室の扉が開き、生活指導の教師と警察官が入ってきた。担任は私の右腕を指した。

包帯の下に傷はなかった。代わりに、彼女から取り上げた赤ペンと、金を渡した日付を書いた小さな手帳が巻き込まれていた。

謝罪文は、彼女が私へ詫びるためのものではない。

私に書かされた文章を、彼女が助けを求める証拠として残したものだった。

謝られる側だったのは、最初から彼女のほうだ。