赤い部屋の女
連続侵入犯は、赤いカーテンの部屋を選んだ。
一人暮らしの若い女性ばかり五人。犯人は窓越しに生活を観察し、真夜中に入り込む。被害者たちは皆、眠っているところを襲われ、顔を見た者はいなかった。
六人目になるため、私は駅裏の古いマンションへ移った。
赤いカーテンを掛け、化粧品を洗面台へ並べ、細身の服をベランダに干した。投稿用の写真は首から下だけ。声は少し高く加工し、毎晩十一時に「おやすみなさい」と書き込んだ。
犯人が見ている確信はあった。
向かいの空室で、ときどき双眼鏡のレンズが光ったからだ。
十日目の夜、髪を整え、薄く口紅を引いた。肩の線が出ないカーディガンを羽織り、ベッドへ入る。胸の下には防刃板、枕の中には手錠。照明を消してから、呼吸を眠った人間の速さに合わせた。
二時四十八分。
玄関ではなく、浴室の小窓が鳴った。
裸足の気配が廊下を進む。甘い薬品の匂い。頬へ手袋が触れた瞬間、手首をつかんだ。
犯人は驚くほど細かった。だが、刃物を抜く動きは速い。ベッド脇でもつれ、壁へ叩きつけられる。私は膝で腕を押さえ、枕から手錠を引き抜いた。
「警察だ。動くな」
低い地声に戻すと、犯人の目が見開かれた。
抵抗する指が、私の頬を掻いた。皮膚ではなく、輪郭を変える薄い樹脂が剥がれる。続いて鬘がずれた。
「おまえ……女じゃない」
その言葉には恐怖より、裏切られた怒りがあった。
廊下へ突入した捜査員が犯人を取り押さえる。
「朽葉警部補、大丈夫ですか」
「口紅が少し落ちただけだ」
鏡には、片方の睫毛だけ長い男の顔が映っていた。朽葉景志、三十四歳。囮役を志願した理由は、被害者五人のうち一人が妹だったからだ。
犯人は連行されながら叫んだ。
「卑怯だ! 男が女のふりをして待つなんて!」
私は赤いカーテンを開けた。向かいの空室へ朝の光が差し込み、双眼鏡が床で白く光った。
「女性しか襲えない人間が、卑怯を語るな」
犯人は最後まで、罠に掛かった被害者の顔をしていた。
けれど六人目の〈女〉は、最初から一度も存在していなかった。