返信不要の七通目

【下書き一】

名越郁弥へ。

彼女と別れて、私を選んでください。

東雲由良は三行で消した。そんなことを望んでいない、と言えば嘘になる。けれど江南史帆を不幸にして始まる未来を、幸福と呼べる気もしなかった。

【下書き二】

あなたが好きです。返事は要りません。

これも消した。返事を要らないことにして、拒絶だけを避けるのは卑怯だった。

【下書き三】

ずっと友達でいよう。

いちばん大きな嘘だった。

由良と郁弥は、大学の映像研究会から十二年の友人だった。失恋すれば夜中に電話し、仕事を辞めれば朝まで飲んだ。三年前、郁弥が史帆と付き合い始めてからも、由良は何も変わらない顔で二人の相談に乗った。

やがて郁弥から、史帆と暮らし始めると連絡が来た。

〈引っ越したら、今までみたいに深夜の電話はできないかも。ごめん〉

由良は「当然だよ」と返信し、その夜、四通目から六通目までを書いては消した。

七通目は、翌朝に送った。

【送信済み】

郁弥へ。

あなたが好きです。

史帆さんと別れてほしいとは言いません。あなたが彼女を大切にしていることも、二人が幸せであることも知っています。

ただ、私は友達という名前を使って、あなたの近くに居続けました。このままだと、優しくされるたびに期待して、二人の幸せを心から喜べない人になります。

だから少し離れます。

これは選んでもらうためではなく、自分がどこから歩き直すのか決めるための告白です。

返信は――やっぱり、ください。

返事はその日の夜に届いた。

〈話してくれてありがとう。由良を大切に思ってる。でも恋人として選ぶのは史帆です。友達でいてほしいと言うのは、たぶん俺のわがままだね。距離が必要なら待ちます〉

由良は画面を閉じ、声を上げて泣いた。

望んでいた言葉ではなかったが、曖昧な優しさよりずっと痛く、ずっと正しかった。

最後に一通だけ返した。

〈ありがとう。今は待たないでください。いつか戻れたら、私から連絡します〉

それから郁弥の誕生日にも、引っ越しの日にも連絡しなかった。

メールのスレッドは削除せず、アーカイブへ移した。

告白は扉を開ける言葉だと思っていた。

由良の七通目が開けたのは、郁弥のいる部屋ではない。

自分がようやく外へ出るための、出口だった。