返信不要の水曜日

 芹が〈今週の木曜会、行けなくなりました。ごめん!〉と送ったのは、帰宅して靴を脱ぐ前だった。

 大学時代から続く四人のグループで、月に一度だけ夕飯を食べる。今月の店を探したのも芹だった。なのに水曜の夕方、金曜までに直せと言われた資料が机に積まれた。断る理由としては十分なのに、送信から十二分たっても既読がつかないと、文章の短さが急に冷たく見えた。

〈本当にごめんね、予約してくれてたのに〉

 打ってから、まだ誰も予約していないことを思い出した。

〈埋め合わせする!〉

 何を埋めるのだろう。欠席一回分の穴は、そんなに深いのか。

 芹は二つとも送らず、玄関にしゃがんだまま、スーパーのレシートを見た。食パン、卵、袋入りサラダ、百円引きのグラタン。レジ袋の底でグラタンは傾き、白いソースが容器の片側に寄っている。

 部屋着に着替え、グラタンを電子レンジに入れた。温めを待つ間にも画面を確認したが、既読ゼロのままだった。みんなが怒っている可能性より、みんながまだ帰宅していない可能性のほうが高い。それでも芹の頭は、空いた席と三人の困った顔を勝手に用意した。

 電子レンジより先に、洗濯機が終了を知らせた。朝に回して、予約設定を間違えたらしい。濡れたタオルを一枚ずつ取り出す。部屋の隅の物干し竿には、昨夜取り込んだ服がまだ掛かっていた。乾いた服を脇へ寄せ、袖の絡んだブラウスをほどいているうちに、謝罪文が三行も必要なことではない気がしてきた。

 グラタンは端だけ熱く、真ん中はまだ冷たかった。芹は再加熱せず、食パンをちぎって冷たい部分をすくった。

 チャットを開き、入力欄に残っていた〈埋め合わせする!〉を消す。代わりに〈返信不要です。店、楽しんできて〉とも書きかけたが、それも消した。返信不要と命じるのも、少し違う。

 最初の一文だけで、事情は足りている。

 芹はスマホを充電器につなぎ、通知音を切った。休む連絡まで上手に見せなくていい。木曜会に行けない水曜日くらい、グラタンの真ん中が冷たいままでもよかった。