返品交換窓口は閉鎖しました
「では、第一回取り違え家族会議を始めます」
十六歳の息子二人が、カラオケ店の画面を議事板にした。病院では大人ばかりが話し、本人たちが置物のようだったからだ。
〈議題一・子どもを交換するか〉
「しません」
二人が同時に言った。
四人の親は気まずそうにうなずいた。
「返品期間は十六年前に終了しています」
「返品って言うな」
「では永久保証」
「家電みたいに言うな」
〈議題二・呼び方〉
一方の父が遠慮がちに尋ねた。
「私は、その……お父さんと呼ばれる可能性は」
「現時点ではゼロです」
「即答か」
「初対面なので」
もう一人の息子が補足した。
「ただし、生物学上の父として連絡先に登録します。表示名は『血の父(仮)』」
「仮はいつ取れる?」
「実績次第」
〈議題三・親の権限〉
「血がつながってるからって、急に成績を聞かない」
「育てた親も、今回の件を理由に過保護にならない」
「初対面の親族へ勝手に連れていかない」
「お年玉は?」
息子たちが身を乗り出した。
四人の親が初めて声をそろえた。
「それは協議する」
「そこだけ団結するなよ」
会議は二時間続いた。
最後に、母の一人が手を挙げた。
「質問してもいい? あなた、椎茸は食べられる?」
向かいの息子は首を振った。
「匂いが無理」
「やっぱり」
彼女は泣きそうに笑った。自分も子どものころから椎茸だけは食べられないのだという。
育てた母は腕を組んだ。
「だから何度刻んでも見つけたのね。血のせいなら、私の料理の腕が悪いわけじゃない」
「そこ安心するとこ?」
もう一方の父が息子の貧乏ゆすりを見て、「俺と同じだ」と言った。育ての父は「それは十八年注意しても直らなかった」と返した。
血で分かることと、暮らして分かることが、テーブルの上に少しずつ並んだ。
会議終了後、六人の連絡用グループを作った。
名称は〈返品交換窓口〉。
息子たちがすぐに〈窓口は閉鎖しました〉へ変更した。
最初の投稿は、育ての母からだった。
〈誰か、テーブルに学生証を忘れています〉
二人の息子が同時に自分のポケットを探った。
次の投稿は、血の父(仮)。
〈唐揚げの残りを持ち帰ったのは誰ですか〉
犯人は四人の親のうち二人だった。
取り違えは、笑って済ませられる出来事ではない。
それでも家族会議の終わりに、六人全員が少しずつ犯人になれる程度には、同じ家族が始まっていた。