返骨は不要です
【訪問ペット火葬・受付記録】
担当者:小比賀迅
依頼者:樒原氏
申告動物:大型犬、雄、九歳
申告体重:三十四キログラム
依頼内容:個別火葬、返骨不要、立会いなし
訪問時、遺体は青い防水袋に入れられ、さらに毛布で包まれていた。
衛生上、顔と首輪の確認をお願いしたが、依頼者は「腐敗が進んでいる」「妻が見ると取り乱す」と拒否。妻は旅行中で不在との説明。
車載計量器では総重量八十一キログラム。
棺と毛布を差し引いても、申告体重を四十キログラム以上超過している。
「死後に水を含んだんでしょう」
依頼者はそう答えた。
火葬前のマイクロチップ確認を実施したが、反応なし。
申込書には、犬は二年前にチップを装着したと記載されている。
再確認を求めると、依頼者は追加料金を払うので、そのまま炉へ入れてほしいと言った。
「金属は全部、燃えますか」
「首輪の金具などは残ります」
「歯の詰め物や、骨を留めるねじも?」
ペットに歯科用の金冠や骨折治療用プレートが使われる場合はある、と回答。
依頼者は安心した様子で、
「残った金属も骨も、こちらへ返さず処分してください」
と念を押した。
防水袋を搬送車へ積む途中、住宅の閉じた車庫から犬の鳴き声がした。
依頼者は隣家の犬だと説明。
しかし車庫の小窓には、申込書に添付された写真と同じ黒い大型犬が見えた。右耳の欠け方と、赤い首輪まで一致している。
犬は元気に立ち、扉を引っかいていた。
担当者は作業を中止し、会社へ位置情報と写真を送信。警察へ連絡するため車内へ戻った。
直後、依頼者からメッセージが届いた。
〈犬は死んでいます。袋の中身を確認しないでください〉
担当者が、
〈車庫に同じ犬がいます〉
と返信すると、既読がついた。
〈では、袋の中が誰なのか、もうお分かりですね〉
車両の後部扉が外から施錠された。
荷室側から、防水袋を内側から引っかくような音が一度した。
【本部追記】
担当者との通信は、その時点で途絶。
依頼者の妻は一週間前から行方不明届が出されている。
犬は保護された。
搬送車と担当者は、現在も発見されていない。