退出者二名
〈金曜二十三時〉
参加者:藤代晴香、国枝朔也、百瀬瑠衣
22:06 晴香
報告。中央放送、採用でした。
22:06 瑠衣
おめでとう!!!!
22:08 朔也
おめでとう
三年間、三人は大学ラジオで同じ番組を作った。晴香が話し、朔也が台本を書き、瑠衣が音をつないだ。けれど採用試験に送った音源の出演者欄には、晴香の名前しかなかった。
22:11 晴香
黙って出してごめん。締切当日に気づいたから。
22:13 朔也
採用されたなら正解だったんじゃない。
22:14 瑠衣
その言い方、いちばん怒ってるやつ。
22:17 朔也
俺は実家の介護施設に入る。番組制作とは関係ない。
22:18 晴香
前に東京の制作会社受けるって。
22:19 朔也
父親が倒れた。面接では言わなかった。夢が弱く見えるから。
しばらく、入力中の表示だけが点いたり消えたりした。
22:25 瑠衣
私は音響工学の院に進む。人の声じゃなく、雑音を研究する。
22:26 晴香
二人とも、番組のデータどうする?
22:31 朔也
晴香が持っていけば。会社で使えるかも。
22:32 晴香
そういう言い方やめて。
22:35 瑠衣
共有ドライブは卒業日に消える。必要な回だけ各自保存で。
晴香は、最終回を三人で収録しようと提案した。朔也は施設の研修、瑠衣は研究室の引っ越しを理由に断った。どちらも本当で、だから余計に埋め合わせがきかなかった。
23:02 晴香
じゃあ番組名、変える?
23:05 朔也
終わる番組に新しい名前はいらない。
23:07 瑠衣
私は好きだったよ。この名前。
23:11 国枝朔也さんが退出しました。
晴香は「ごめん」を打ち、送信せずに消した。
23:14 晴香
瑠衣、ジングルだけでももらえる?
23:16 瑠衣
あれ、三人の声を重ねて作ったから、晴香だけの番組では使えないよ。
23:17 百瀬瑠衣さんが退出しました。
参加者一名になった画面で、予約投稿が動いた。
23:23 番組ボット
まもなく放送開始です。今夜も三人でお送りします。
再生されない音源の横で、小さな赤いランプだけが点滅し続けていた。