逆さ鷹の旗

草原では、疫病の死者を運ぶ荷車だけが夜の陣を自由に通れた。

イルギンは三人分の死体の下に横たわり、腐った羊脂を胸へ塗っていた。鼻を塞げば怪しまれる。呼吸を止めれば、味方の丘まで持たない。だから浅く吸った。死者の髪が唇に触れるたび、舌で押し返した。

荷車の車輪は、死体の重みで左へ軋んでいた。音が一定でなければ、下に生者がいると分かる。イルギンは曲がるたび自分の肩で車軸を押し、軋みを死者三人分の重さに合わせた。

荷車には逆さ鷹の旗が立っている。青地に白い鷹。本来は翼を上へ広げる旗だが、疫病車だけは天地を逆にする。敵の騎兵は縁起を恐れ、槍先すら近づけない。

旗は目印であり、命令でもあった。丘の味方が逆さ鷹を見れば、夜明け前に馬を捨て、徒歩で南の湿地を抜ける。騎馬民族が馬を置くなど、敵は考えない。

一つ目の哨所は臭いだけで通った。二つ目では祈祷師が鈴を鳴らし、荷車を火にくべろと言った。御者役の老兵が咳き込み、イルギンの脇腹を踵で二度蹴った。合図ではない。恐怖だった。

祈祷師が松明を近づけたとき、イルギンは上の死体の腕をつかみ、自分の胸へ落とした。死体の袖から黒い腫れが見えた。昨日、染料で描いたものだ。

「触れれば、お前の天幕から先に焼く」

老兵が言うと、祈祷師は鈴を落とした。

最後の柵で敵の百人長が旗を見上げた。

「鷹の頭が北を向いている。疫病谷は西だ」

風向きが変わっていた。旗がねじれ、鷹の嘴が丘を指している。

イルギンは死体の下で短刀を握った。ここで斬れば、旗は届かない。黙っていれば、百人長が布を直すかもしれない。直されれば命令が変わる。

老兵は荷車から降り、旗竿に手をかけた。そして逆さのまま、さらに半回転させた。

「死者は故郷を見る」

草原の古い言い伝えだった。百人長は舌打ちし、柵を開けた。

老兵は振り返らなかった。出発前、彼は『旗が着けば、俺は着かなくていい』と言っていた。草原の伝令は、自分を荷物より軽く扱う。

丘の手前で老兵は矢を受け、御者台から落ちた。荷車は傾き、死体とイルギンが草へ転がる。彼は立たず、旗竿だけを起こした。

遠い丘で、見張り火が三つ消えた。

次いで、味方の逆さ鷹が一本、闇へ上がった。