遺失物番号〇〇七
【東都中央駅 遺失物取扱記録】
四月三日 午後十一時四十八分
発見場所:三番線、北側ベンチ下
品名:黒色ビジネスバッグ
内容物:弁当箱、家の鍵、駅務員証一枚
駅務員証の氏名は「久世達臣」。顔写真も私本人と一致する。
ただし、私の駅務員証は現在も胸ポケットにある。
保管場所:倉庫A―12
四月四日 午後十一時四十八分
同じ場所で同型のバッグを発見。
前日のバッグはA―12に保管されたまま。
内容物:替えの靴下、歯ブラシ、本記録用紙の写し。
写しには「四月五日、三個目を発見」と記載されている。
悪戯の可能性を考え、監視カメラを確認。
午前零時十七分、私がバッグをベンチ下へ置く映像あり。
私は午後十一時四十分に退勤済みだった。
四月五日 午後十一時四十八分
三個目を発見。
内容物:自宅の目覚まし時計、左手の爪、封筒。
目覚まし時計は今朝まで枕元にあった。
爪は私の左手薬指と大きさが一致する。現在、同じ指の爪だけが根元から消えている。出血なし。
封筒には「返却期限まで三日」とある。
四月六日
発見前にベンチを撤去した。
午後十一時四十八分、床の上に四個目が出現。
内容物:幼少時の写真、奥歯一本、声。
バッグを開けると、内部から私の声で「これは忘れ物ではない」と繰り返した。
口内を確認。右下の奥歯が消失していた。
四月七日
倉庫A―12を封鎖。
午後十一時四十八分、バッグは発見されず。
代わりに構内放送が流れた。
『遺失物をお預かりしています。持ち主の方は、速やかにお引き取りください』
氏名は呼ばれなかった。
それでも、私の足は勝手に倉庫へ向かった。
四月八日 午前零時二分
A―12の封印を破り、内部を確認。
バッグは七個に増えていた。
六個目までの中身は空。
七個目だけが温かく、布越しに呼吸している。
取っ手に荷札あり。
品名:駅務員 一名
特徴:右頬にほくろ。左手薬指の爪なし。右下奥歯なし。
氏名:久世達臣
取扱期限:本日
処理方法:持ち主へ返却
ここから先の記録は、私の筆跡ではない。
四月八日 午前零時十七分
返却完了。
受取人の本人確認は、顔、声、記憶ともに一致。
旧品は倉庫A―12へ移動。
保管期限は無期限。
【追記】
朝番の職員へ。
A―12から、扉を叩く音がしても開けないこと。
中の者は職員の名前をすべて知っているが、遺失物に応答義務はない。
【朝番記入】
午前六時、久世さんが通常どおり出勤。
右頬のほくろ、左手薬指の爪、右下奥歯、すべて確認済み。
ただし倉庫内からも同じ声で、
「胸ポケットの駅務員証を見ろ」
と訴えている。
出勤した久世さんの胸には、駅務員証が二枚重なっている。