里芋は崩さず揚げる

配達先の玄関で謝った回数を、帰り道では数えないようにしていた。

指定時刻を一時間過ぎた。住所を一つ読み違え、連絡も遅れた。客は怒鳴らなかった。その代わり、冷めた声で「もう結構です」と言った。営業所に戻れば所長から始末書を渡され、明朝までに書けと言われた。制服の袖は雨と汗で冷たく、端末には未配達がまだ二件残っていた。同僚が代わってくれたことにも、まともに礼を言えなかった。

雨宿りのつもりで入った居酒屋には、窓際のカウンターに無口な常連が一人いた。濡れた折り畳み傘をきれいに畳み、足元へ置いている。僕の傘から落ちた雫が椅子の下に広がると、その人は黙って新聞を二つ折りにし、床へ差し出した。

「すみません」と言うと、返事の代わりに、もう一度だけ新聞の端を押した。

僕は里芋の唐揚げを頼んだ。鍋に落ちた芋が、ぱちぱちと細かな音を立てる。揚げ油の香ばしさに、青海苔の磯の匂いが重なった。丸い里芋は薄い衣をまとい、割れ目から白い湯気を吐いていた。

一つを急いで噛み、舌を焼いた。外はかりっとしているのに、中は驚くほど柔らかい。箸で押せば崩れそうだったが、ぎりぎり形を保っている。

店主が布巾を絞りながら言った。

「中まで熱いから、急がなくていい」

始末書には、道を間違えた理由を書けばいいと思っていた。似た町名、焦り、ナビの更新。それで終わらせれば、書類は整う。けれど遅れると分かった時点で、連絡を先延ばしにしたことのほうが重かった。

奥の常連は、濡れた新聞をまとめ、僕の傘の下へもう一枚重ねた。何も責めず、何も励まさない。その手つきだけが、後始末を途中にしなかった。

僕はスマートフォンのメモに、明日の順番を書いた。所長へ報告。始末書を提出。そのあと、配達前にあの家へ電話し、改めて謝る。許してもらえるとは限らない。それでも「もう結構です」を、自分に都合よく終点にしない。

最後の里芋は少し冷めて、甘みが前より濃かった。青海苔の香りと、まだ中心に残る熱が、雨で冷えた喉をゆっくり通っていった。