鈍い音のゴブレット

市立宝飾館の開館祝賀会で照明が二十秒だけ落ち、復旧すると展示台の裸石《蒼后》が消えていた。出入口は警備員が塞いでおり、展示室にいたのは館長の鳴海、鑑定士の常盤、警備主任の鷹司、寄贈者の八雲だけだった。身体検査にも鞄の検査にも、青い石はない。

中央卓には、鳴海と常盤が乾杯に使った二つの細いゴブレットが残っていた。鷹司は勤務中なので紙コップの水、八雲は持病を理由に酒を断っていた。鳴海は停電中も展示台の正面に立ち、鷹司は扉、八雲は壁際にいたという。常盤だけがケースの脇にいたが、衣服には石を隠せる場所がなかった。警察は二客を空のケースへ移そうとした。

「触れずに、まず音を聞かせてください」

学芸員の香坂が止めた。手掛かりは三つしかない、と彼女は言った。

一つ目。鳴海のゴブレットは爪で弾くと澄んだ音を返したが、常盤のものだけ鈍く短く鳴った。

二つ目。空にして量ると、常盤のゴブレットは同じ製品の鳴海のものより十八・四グラム重かった。《蒼后》も台座を外せば十八・四グラムである。

三つ目。常盤のゴブレットだけ、銀色の脚の付け根に髪の毛ほどの新しい隙間が一周していた。二客にはそれぞれ館長と鑑定士の頭文字が彫られ、取り違えはない。

八雲は寄贈撤回をめぐって鳴海と争い、鷹司には警備失態を隠す理由があった。だが香坂は動機の大小を数えなかった。

常盤は肩をすくめた。

「重いのは製造誤差でしょう。ガラスは工業部品ではない」

「これは記念品です。型も重さもそろえて納められました」

香坂は布越しに脚を持ち、ゆっくり回した。銀の台座が半回転したところで、常盤の頬から祝賀の色が消えた。

「暗闇で石をポケットへ入れれば検査で見つかる。そこであなたは、自分のゴブレットのねじ込み式台座を緩め、空洞の脚へ《蒼后》を落として閉じた。音が鈍い、石と同じだけ重い、脚に新しい隙間がある。この三点はすべて、異物が中にある時だけ同時に起きます。しかも頭文字が所有者を決め、他人の器だったという逃げ道もありません。身体検査を通り抜けたのは、身体から離して卓上へ残したからです」香坂が台座を外すと、青い裸石が白布へ転がった。常盤は乾杯の時より深く頭を垂れた。