鉄母の番号札

「番号札をお持ちください」

鉱山都市ドボルの採掘者ギルドでは、受付係グラディナの声だけが、つるはしの音よりよく通った。

彼女は小柄な老ドワーフで、朝から採掘権の更新、鉱石の鑑定、落盤保険の申請を一人でさばく。腰は曲がり、眼鏡は分厚い。若い坑夫たちは、彼女が窓口の椅子から立つところさえ見たことがなかった。

「鉄母」と呼ばれた創設者の像は広場に立っている。筋骨隆々の大女として彫られているため、受付の老女と同一人物だと疑う者はいない。グラディナ自身も像を見るたび、「肩を盛りすぎだよ」と小さくこぼすだけだった。

見習い事務員のティボは、番号札の束を落として叱られたばかりだった。

そのとき、鑑定台に置かれた黒い鉱石が割れた。

中から現れたのは、岩を食らって成長する災害級魔獣《坑道喰らい》。商人に化けた密輸屋が、ギルドの地下金庫ごと飲ませるため運び込んだのだ。

魔獣が口を開く。石の牙の奥で赤い光が膨らんだ。

避難の鐘が鳴り、窓口前は土煙に包まれる。ティボは机の下へ転がり込み、そこから見てしまった。

グラディナが椅子に座ったまま、算盤の珠を一つ弾く。

ただ、それだけだった。

乾いた音に合わせて、魔獣の巨体へ無数の直線が走った。次の瞬間、坑道喰らいは拳ほどの立方体へ整然と分かれ、鑑定籠の中へ崩れ落ちた。悲鳴を上げた密輸屋も、いつの間にか鉄の輪で縛られている。

グラディナは帳簿に一行書き足した。

――危険鉱物、二百七十四片。没収。

さらに石片を色と重さで十二種へ分け、売却可能な核だけを別箱へ移した。その額は、密輸で壊された鑑定台の修理費とぴたり一致する。戦いより後始末の計算に時間をかけるのが、彼女らしかった。

机の下には、建都以前の古い槌が立てかけてあった。柄に刻まれた名は《鉄母グラディナ》。採掘者ギルドを最初の坑道から築いた、伝説の創設者と同じ名だった。

土煙が晴れるころには、石片は封印箱へ、密輸屋は荷運び用の袋へ収められていた。坑夫たちは魔獣が自壊したのだと思い込み、誰も老受付係を見ない。

グラディナは散らばった番号札を拾い、青ざめたティボの手へ戻した。

それから、列を抜かした坑夫を眼鏡越しに睨む。

「番号札をお持ちください」