銅貨三枚の原価表

「品物の原価しか見えない? 売値を読めぬ商人は無能だ」

商業ギルドの試験で、マーヴァは露店許可証を破られた。

【固有技能:《原価札》――完成した商品に触れると、それを作るため実際に使われた金額だけが見える】

需要も人気も将来価格も分からない。商業卿ドレイクは「帳簿係にも計算盤がある」と鼻で笑った。

折悪しく、鉱山街では昼食暴動が起きかけていた。食料商たちは坑夫向けの弁当を一箱銅貨十枚へ値上げし、坑夫組合は三枚しか払えないと門を閉じた。採掘が止まれば、王国の武器工房も止まる。

鉱山の昇降機は止まり、炉には半日分の鉱石しか残っていない。坑夫の妻たちは空の籠を抱え、商会前へ座り込んだ。値下げを命じれば商人が撤退し、放置すれば暴動になる。商業卿にも解決策はなかった。

ギルドの料理人が出した弁当へ、マーヴァは触れた。

――原価、銅貨二枚。

硬いパン、脂身一切れ、豆数粒。それを十枚で売ろうとしている。だが不正を暴くだけでは、坑夫の腹は満たせない。

マーヴァは市場で、売れ残った芋と玉葱、牛脂、少量の挽肉を買った。芋を潰し、肉の香りを移し、丸めて揚げる。前世の惣菜屋で見たコロッケだった。大鍋の塩汁を添えても、一食の原価は銅貨一枚半。

彼女は弁当を銅貨三枚で売った。さらに香辛料を振った特製品は五枚、持ち帰り用の包み紙には翌日の予約印を付けた。安い基本食で客を呼び、余裕のある者には高い品を選ばせる。千食が昼前に消え、利益は従来の弁当屋より多く残った。

食料商が「安売りは市場を壊す」と怒鳴る。

マーヴァは彼の弁当に《原価札》を出し、二枚の数字を全員へ見せた。坑夫たちの視線が一斉に商人へ向く。商業卿は長く沈黙し、マーヴァの鍋から一つ取った。

外はかりり、中は柔らかい。肉は少ないのに、脂と玉葱の香りで物足りなさがない。

ドレイクは破った許可証を拾い、王国商会の印を押し直した。

「おまえは原価しか見えぬのではない」

彼は銅貨三枚を卓上へ置く。

「誰もが払える値段から、利益を逆算して見せたのだ」