錆びた片眼鏡は偽印を嗤う

古道具店〈煤硝子〉の店主アミュラは、王立鑑定院を追放された女だった。

理由は単純だ。侯爵家の聖遺物を偽物だと言い切り、上司に逆らったからである。今は路地裏で、誰にも価値を認められない古物だけを並べている。

雨の午後、同じ鑑定院の外套を着た青年ケルヴァンが入ってきた。襟章は剥がされ、顔には殴られた痕がある。

「偽造証明書に俺の印が使われた。明日の審問で、犯人扱いされる」

彼が机に置いた羊皮紙には、確かに本人の認印が押されていた。印影も魔力紋も完全。正規の鑑定具では偽物と判定できない。

「無実を証明できる道具はないか」

「あります。ただし、見えるのは物の値段ではありません」

アミュラは錆びた銀縁の片眼鏡を棚から取った。レンズには蜘蛛の巣のようなひびが走っている。

「これは所有者ではなく、物に最後の変更を加えた手を映します」

ケルヴァンが片眼鏡越しに証明書を見ると、印影の周囲だけが青白く浮いた。そこへ、細い指が逆向きに印章を押す幻が重なる。袖口には鑑定院長だけが許される三本銀線。

さらに羊皮紙の端には、削り取られた日付が赤く燃えていた。証明書が作られた日は、ケルヴァンが北部出張中だった。

青年は息を呑み、次いで笑った。追い詰められた者の笑いではない。

「院長の袖だ。俺を切って、偽物を本物にするつもりだったのか」

「審問官の前で、同じように覗かせればよいでしょう」

二日後、ケルヴァンは胸に新しい金章をつけて戻った。院長は罷免され、彼が止めようとした偽造品も押収されたという。

彼は値札どおりの銀貨に、追放時に取り上げられていたアミュラの鑑定士章を添えた。

「審問官からだ。復職を望むなら席を用意すると」

アミュラは章を売上箱に入れた。

「私は、ここで見捨てられた物を鑑定します」

「なら鑑定院の押収倉庫から、客を回す」

ケルヴァンが片眼鏡を大切に包んで帰る。雨は上がっていた。

アミュラが錆びた看板の煤を拭ったとき、澄んだ音で二度目のドアベルが鳴った。