閉店後カマキリ退出作戦
閉店後のファミリーレストランで、自動ドアが勝手に開き続けた。
原因は、センサーの真下に立つ一匹のカマキリだった。
「不審者です」
新人のアルバイトが言った。
「六本脚でも客は客だ」と店長。
「でも注文しません」と厨房係。
「水だけ出して帰ってもらう?」と清掃係。
カマキリは店内へ向き直り、鎌を構えた。
「戦う気です」
「こちらは戦わない。低評価を書かれる」
店長はモップで外へ追おうとした。カマキリは見事に飛び、注文用タブレットへ着地した。
画面に触れた前脚が、キッズパンケーキを三つ注文した。
「意外と食べますね」
「注文は取り消せ!」
誰も虫をつかめなかった。
厨房係はボウルを持ち、清掃係はちり取りを構え、店長はなぜか鍋のふたで顔を守った。新人だけが、カマキリをじっと見ていた。
「明かりを減らして、外の植え込みまで道を作りませんか」
新人は田舎育ちで、子どものころ虫をよく外へ逃がしたという。店長は昼間、彼女が皿を割ったとき、「向いていないなら早めに言え」と怒鳴っていた。そのせいで、閉店作業中も彼女はほとんど話さなかった。
「任せていい?」と店長が尋ねた。
「全員、一度静かにしてください」
新人は大きなサラダボウルをカマキリの前へ置き、メニュー表で後ろをゆっくり囲った。逃げ道を一つだけ残す。カマキリはメニューへ乗り、前脚を揺らした。
「ただいま、本日最後のお客さまがお帰りです」
清掃係が小声で実況する。
新人はメニューを水平に持ち、自動ドアまで歩いた。店長がドアを開け、厨房係が植え込みを懐中電灯で照らす。
外へ着くと、カマキリはすぐには降りなかった。
「延長料金を取りますか」
「急かすな。客には客の都合がある」
やがてカマキリはアジサイの葉へ移った。鎌を一度持ち上げ、闇の中へ消えた。
店内へ戻ると、タブレットにはパンケーキ三つの注文が残っていた。
厨房係が焼き、四人で分けた。
店長は新人へ言った。
「昼は、怒鳴って悪かった。割れた皿より、黙らせたことのほうが問題だった」
新人はパンケーキを切りながら答えた。
「次からは、人にも逃げ道を一つ残してください」
翌日の業務日誌には、こう記された。
〈迷入昆虫一匹、無事退店。
破損なし。
誤注文パンケーキ三皿。
新人職員の発言、今後は遮らず最後まで聞くこと〉
小さな親切で救われたのが、カマキリだけだったかどうかは、誰にも分からなかった。