間違いは嘘ではない
砧川未明は、三つの箱を覆っていた布が落ちる前に目を閉じた。
「青」と、誰より早く言った。
六角堂譲と鷹司比奈が同時に笑う。中央の箱は赤、左右は白。青い箱など一つもない。
壁にはこう表示されていた。
〈鍵の入った箱の色を一度だけ答えよ。最初に嘘をつかなかった一名を解放する〉
三人の首輪には、脈拍、発汗、瞳孔、脳波を読む細い端子が食い込んでいる。ここは「嘘をつけない部屋」。誤った答えを口にすれば死ぬ――譲と比奈はそう理解した。
だが未明は、布が落ちる瞬間にわざと瞼を閉じた。箱も、鍵が中央へ入れられる映像も見ていない。
〈回答、青。事実不一致〉
赤灯が一度点滅し、それから緑へ変わる。
〈欺瞞意図、検出されず〉
譲の笑みが消えた。
「間違っているだろ!」
「間違いよ。でも嘘じゃない」
嘘とは、真実を知りながら相手を欺くために逆を言うことだ。未明は何も知らず、最初に頭へ浮かんだ色を答えた。事実には反しても、欺く意図はない。
主催者は、参加者が箱の中身を見たうえで、先に答えるか、慎重に待つか、他人の表情を読むかで争う映像を欲しがった。そのため「虚偽」ではなく、刺激的な「嘘」という語を選んだ。
その一語が穴になった。
比奈は慌てて目を閉じる。しかしもう中央の赤い箱を見ている。今さら「白」と言えば、誤りではなく嘘になる。「赤」と言えば嘘ではないが、最初の回答者にはなれない。
譲が歯を食いしばって「赤」と答えた。判定は真実。しかし壁は動かない。
〈最初の非欺瞞回答者、砧川未明〉
首輪が外れ、未明はようやく目を開けた。赤い箱から鍵が取り出される。
『偶然を勝利と呼ぶのか』
「いいえ。知らない状態を選んだの」
未明は鍵を受け取り、二人を見た。
「知識は武器になる。でも嘘を禁じる場所では、知らないことも盾になる」
青い箱は最後まで存在しなかった。それでも、青という答えは彼女を殺せなかった。