雨を所有した男
三年雨の降らない領地で、領主バルガスだけが水を売っていた。
水源は井戸ではない。首に青い石を埋め込まれた聖女パルミラが、毎晩、領主館の塔で雨を祈らされていた。青石の首輪には「雲は所有者の許可した土地にのみ集う」と刻まれている。
旅の水路技師リュカンは、干上がった村の報酬として一袋の銅貨を受け取る代わりに、領主館へ入った。
「新しい貯水池を造るのか」とバルガスは尋ねた。
「いいえ。雨の故障を直します」
塔ではパルミラが膝をついていた。窓の外には黒雲があるのに、村の上だけが不自然に避けられている。
バルガスは契約板を掲げた。
「この女の首輪に私の印がある限り、雨粒一つまで私のものだ。欲しければ、お前の水路も私に差し出せ」
リュカンは青石に指を触れた。石の内部には、領主印へ向かう細い魔力の水路が走っていた。
「詰まっているのは水路じゃない。所有という言葉です」
工具袋から取り出したのは、銀ののみ一本。バルガスが笑う。魔法の首輪を金物で壊せるはずがない。
リュカンは領主印を狙わなかった。青石の中央に刻まれた「所有物」の一字だけを、こつんと打った。
石に亀裂が走る。
首輪は砕けず、まず文字が水のように流れ落ちた。契約板の文も同時ににじみ、バルガスの名だけが泥になって床へ垂れる。最後に青石が開き、二つの半月となってパルミラの肩から落ちた。
その瞬間、塔を揺らす雷鳴が響いた。
雨は領主館だけを避け、干上がった畑へまっすぐ降った。
「止めろ!」とバルガスが叫ぶ。
「もう私の祈りではありません」
パルミラは立ち上がった。誰にも頭を下げず、雨の中へ歩いていく。
リュカンも村へ戻り、水路の泥をさらった。夜まで働き、ようやく最初の流れを畑へ通す。村人たちは雨を浴びて笑っていたが、彼は黙って次の溝を測った。
背後で、濡れた足音が止まった。
パルミラがいた。青石の代わりに、首へ一枚の木札を下げている。そこには彼女自身の字で「雨守り」と書かれていた。
「自由なら、都へ行けます」
「ええ。だからここへ戻りました」
彼女はリュカンの測量杭を一本取り、畑の端へ立てた。
「雨は誰のものにもなりません。でも、この村に降るよう祈ることは、私が決められる」
「私のために?」
「あなたの隣で、です」
二人の間を新しい水が走った。命令の水路ではなく、自分たちで行き先を選んだ流れだった。