雪の庭で外套を選ぶ
王宮の雪中園遊会で、サフィネは指先を袖へ隠していた。
白銀の庭は美しかったが、風は刺すように冷たい。侍女から渡された毛皮の外套は重く、肩の古傷を圧迫する。着れば痛い。脱げば寒い。どちらも言い出せずにいると、皇太子ラウレンツが足を止めた。
「それを脱げ」
周囲の令嬢たちが驚く。ラウレンツは笑わない皇太子として知られ、遅参した伯爵をその場で退出させたばかりだった。
彼は自分の従者から、薄い黒布の外套を受け取る。裏には細い温石が縫い込まれていた。
「重いものは肩が痛むと言ったな」
「一度だけです」
「一度で足りる」
外套は軽く、首元の留め具も柔らかな紐だった。サフィネが金具の冷たさを嫌うことまで覚えていたらしい。
昼過ぎ、主催の王妃が雪橇を指した。
「婚約候補のお二人には、民衆の前を一周していただきましょう」
金細工の箱型橇を見た瞬間、サフィネの胸が詰まる。幼い頃、転覆した馬車に閉じ込められて以来、狭い乗り物が苦手だった。
「乗りたくありません」
王妃は笑顔を崩さない。
「ほんの十五分です。殿下の隣なら怖くないでしょう」
「殿下の隣でも、嫌です」
周囲から小さな非難が漏れた。皇太子の厚意を受けながら、恥をかかせるのかと。
ラウレンツは橇の扉を閉めた。
「巡回は中止だ」
「民が待っています」と式典官が慌てる。
「余だけ歩く」
「殿下が徒歩では格式が」
皇太子はサフィネへ尋ねた。
「庭に残るか。室内へ戻るか」
「柱廊から雪を見たいです」
「分かった」
彼は自分も橇へ乗らず、サフィネと同じ速さで柱廊へ向かった。王妃が呼び止める。
「そこまで彼女を甘やかしては、未来の妃が務まりませんよ」
ラウレンツは振り返った。
「未来の妃と決めたのは誰です」
雪の中、祝福の拍手が止まる。
「外套は寒さを防ぐために掛けた。返礼として恐怖を差し出させるためではない」
皇太子は全参列者へ命じた。
柱廊へ着くと、従者が甘い香酒を差し出した。サフィネが冬でも酒を飲まないことを覚えているラウレンツは、温めた梨水へ替えさせる。
「飲まなくてもいい。ここへ置く」
好意まで受け取る義務にしない言い方に、彼女の肩から力が抜けた。
「サフィネが乗らないと言った橇へ、余の名で彼女を近づけるな」