雪の閲兵式と黒い外套

冬の閲兵式は、吹雪の中でも予定どおり行われた。

薬師リーネは壇上の端で、凍えた指を袖へ隠していた。兵士たちが微動だにしないのに、自分だけ寒いと言えるはずがない。

中央に立つ騎士団長バルドは、雪をかぶっても石像のようだった。部下の報告には頷くか首を振るだけ。祝辞を述べる大臣にも「長い」と一言返し、広場を凍らせた。

その彼が、リーネの前で足を止めた。

「手」

差し出すと、指先を見て眉を寄せる。次の瞬間、黒い外套が彼女の肩へ掛けられた。裏地には薄い温石が縫い込まれている。

「重くありません」

リーネは驚いた。以前、分厚い毛皮は肩が凝ると、治療室で一度こぼしたことがある。

「軽く作らせた」

それだけ言うと、バルドは留め具を彼女自身へ渡した。勝手に結ばず、触れるかどうかも委ねてくれる。

式典官が慌てて近づいた。

「団長閣下、その外套は勝利の象徴です。式の間だけでもお戻しを」

バルドは見もしない。

「不要だ」

やがて王妃が到着し、戦勝旗の前へリーネを呼んだ。

「負傷兵を救った薬師として、団長の隣で勝利宣言を読みなさい」

リーネは紙を見た。そこには、敵国の民まで皆殺しにした戦いを「完全勝利」と称える文章がある。

「読みたくありません」

王妃の声が冷える。

「命令です。薬師一人の感情で式を乱すの?」

リーネは唇を噛んだ。バルドの功績まで傷つける気がした。

だが彼は宣言書を受け取り、二つに折った。

「読ませない」

「団長、これは王命です」

バルドはリーネへ視線を下ろす。

「降りるか」

「はい。暖炉のある救護所へ戻りたいです」

彼は彼女の歩幅に合わせて壇を下りた。全軍が見守る中、王妃へ背を向ける。

広場の兵たちは、外套を失った団長が雪を受けて歩く姿を見ていた。バルドは寒そうな素振りを一度も見せず、救護所の扉が見えるまでリーネの横を離れなかった。王妃の呼び止める声にも足を止めない。

「閲兵を続けろ。リーネは参加しない。彼女の拒否を、忠誠心の不足と呼ぶな」