零番の靴箱

鏑木玄貴は、廃校を宿泊施設へ改装する会社の記録写真を撮っていた。二十八歳。最後の撮影場所は昇降口で、靴箱には一から三百二十まで番号が振られている。

卒業生掲示板の保存ログには、一件だけ削除されず残った投稿があった。

【旧稲生中・昭和六十三年度】

《番号のない靴箱へ、自分の靴を入れてはいけない》

投稿者は、昔この地域では葬列が家へ戻らないよう、死者の履物を番号のない箱へ隠したと説明していた。学校が建った後も、転校者や行方不明者の上履きを同じ場所へ収めたという。

玄貴は壁面を撮影していて、最下段の奥に細い扉を見つけた。数字の札はなく、取っ手だけが新しい。開けると、中には濡れた土と白い上履きが何十足も詰まっていた。

床が泥だらけだったため、構図へ自分の革靴を写したくない。玄貴は一度だけ、革靴をその箱へ入れ、備え付けの来客用スリッパに履き替えた。

シャッターを切るたび、写真の靴箱が一段ずつ増えた。最後の一枚には、零と書かれた札が現れ、その前に学生服姿の玄貴が背を向けて立っている。実際の昇降口には誰もいない。

玄貴は撮影を切り上げた。箱を開け直すと革靴は消え、代わりに古い生徒手帳があった。顔写真は十五歳の自分。氏名欄は鏑木玄貴、在籍期間は明日から三年間となっている。手帳は置き、スリッパのまま帰った。

帰宅後に写真を確認すると、撮影時刻はすべて十五年前の入学式の日付へ変わっていた。零番の扉だけが少しずつ開き、連写の最後では内側から玄貴の革靴を履いた足が一歩出ている。クラウドの人物検索はその足元を《鏑木玄貴・登校中》と分類した。削除した写真は、卒業アルバムという新しいフォルダへ自動で戻った。

翌朝、駅の改札で交通系ICが止まった。駅員が履歴を読み取り、首をかしげる。

「昨夜二十二時十八分、旧稲生中の昇降口から入場したままですね。学校の改札って、何線ですか」

その直後、マンションの宅配ボックスアプリが鳴った。

《零番ボックスに履物を保管しました。受取人は校内にいるため、代理の方は迎えに来てください》

玄貴が玄関を見ると、脱いだ覚えのない白い上履きが、内向きに揃えてあった。