顔のない家族写真

 学校で「家族写真を一枚持ってきてください」と言われた。

 うちには、五人そろった写真がなかった。

 お父さんは朝早く仕事へ行く。

 お母さんは夜の病院で働く。

 お姉ちゃんは部活から遅く帰る。

 おばあちゃんは昼間、リハビリへ通う。

 ぼくが起きるころにはお父さんがいなくて、お母さんが帰るころにはぼくが眠っている。

「日曜日に撮ろう」

 提案したけれど、お父さんは出勤、お姉ちゃんは試合だった。

「合成すれば?」

 お姉ちゃんが言った。

「それ、家族写真なの?」

「顔が五個あればいいんじゃない?」

 ぼくは嫌だった。

 ベランダへ出ると、洗濯物が風に揺れていた。

 お父さんの作業着。

 お母さんの白い靴下。

 お姉ちゃんのチームシャツ。

 おばあちゃんの花柄のエプロン。

 ぼくの黄色い体操服。

 昨夜か今朝、全員が一度は家へ帰り、脱いだものだった。

 ぼくは洗濯物を写真に撮った。

 教室へ持っていくと、友達に笑われた。

「人がいないじゃん」

「いるよ」

 ぼくは一枚ずつ説明した。

「これはお父さん。油の匂いがする。これはお母さん。いつも眠そう。これはお姉ちゃんで、汗くさい。これはおばあちゃん。これはぼく」

 先生は写真を、教室の一番端へ貼った。

 授業参観の日、家族はまた全員そろわなかった。

 最初におばあちゃんが見に来た。

 次に夜勤前のお母さん。

 昼休みにお父さん。

 放課後、お姉ちゃん。

 みんな同じ写真の前で足を止め、感想を家族の連絡画面へ書いた。

〈エプロン、もっときれいなのがあったのに〉

〈作業着の袖、ほつれてるな〉

〈汗くさいは書かなくていい〉

〈今度は顔も撮ろう〉

 展示最終日の夕方、写真を外しに行くと、廊下に四人がいた。

 お父さんは仕事を早く切り上げ、お母さんは夜勤前に寄り、お姉ちゃんは部活を一日休み、おばあちゃんは先生に頼んで待っていた。

「せっかくだから撮ろう」

 先生が言った。

 五人並ぶと、誰かが目を閉じ、お母さんはあくびをし、お姉ちゃんの髪は乱れていた。

 きれいな写真ではなかった。

 それでもぼくは、洗濯物の写真と並べて飾った。

 家族は、いつも一緒にいる人たちではない。

 別々の時間を生きながら、同じ家へ洗濯物を持ち帰り、ときどき一枚の写真へ集まってくれる人たちだ。