鳴らなかった勝利の鐘
鐘守りのイオシュは、玻璃蝙蝠の巣へ入る前に、小さな鐘の舌を布で包んだ。
「音を出さない鐘に何の価値がある」
雷槍士ロギスは鼻で笑った。探索中に危険を知らせるのが鐘守りの仕事だ。それなのにイオシュは、鳴らすどころか金具まで押さえ込んでいる。戦果盤に出た事前評価も2%。ロギスは彼を荷物持ちと呼んだ。
巣の最奥で、女王蝙蝠が玻璃の翼を広げた。雷槍が胸を貫き、怪物は粉々に砕ける。
「終わりだ」
勝ち鬨を上げようとした仲間を、イオシュが手で制した。
次の瞬間、床の破片が震えた。女王の欠片は洞窟に響いた音を吸い、元の形へ戻ろうとしていた。鎧の擦れる音、荒い呼吸、剣を落とす音。そのたび玻璃の骨が組み上がる。
イオシュは鐘を胸に抱き、布の端を引いた。
鐘は鳴らなかった。
代わりに、洞窟中の音がそこへ吸い込まれた。雷槍の轟音さえ、分厚い雪の下で弾けたように消える。女王の翼は半分まで戻ったところで止まり、また破片へ崩れた。
「攻撃しろ」
イオシュの声だけが、鐘の内側から低く響いた。
ロギスたちは無音のまま武器を振るった。女王は砕けても再生できない。欠片が震えるたび、イオシュが鐘の向きを変え、音の芽を摘んだ。
討伐が終わるころ、彼の両腕は鐘の重みで震えていた。ロギスはそれを見ず、帰還すると「雷撃で再生能力まで焼き切った」と報告した。
ところが戦果盤は討伐証明を受け付けなかった。巣に残った音響記録を読み込み、女王が再生に使うはずだった反響の行き先を表示する。
すべてが、布に包まれた鐘へ集まっていた。
ロギスが異議を唱えて槍を床に打ちつける。大広間に鋭い音が響くと、イオシュの鐘がひとりでにそれを吸った。
静寂の中で、表示だけが鮮やかに反転した。
討伐隊の者たちは勝利の鐘を鳴らそうとして、誰からともなく手を止めた。音を奪う判断がなければ、今も女王は再生していた。受付官が指揮章をイオシュの鐘へ掛けると、ロギスの雷槍だけが場違いな音を立てて床へ倒れた。
【再算定完了】
【イオシュ・討伐寄与率:2% → 95%】
【隊内順位:最下位 → 首位】
【役職更新:鐘守り → 音律封鎖長】