黒い手を洗う鐘

鉱山町グラードには浴場が一軒だけあった。坑主の私有で、入浴料は日給の半分。炭粉を肺まで吸い込んだ坑夫たちは、黒い顔のまま眠るしかなかった。

新任の管理官バルドは、初日に私有浴場の帳簿を見て笑った。

「湯を沸かす石炭より、番人の酒代のほうが高いな」

坑主ヘルマンは鼻を鳴らした。

「嫌なら入らねばよい。鉱山は慈善事業ではない」

バルドも慈善をする気はなかった。翌朝、坑口に一枚の表を貼った。

百台の鉱石を売るごとに、坑主は一台分の石炭を共同浴場へ納める。坑夫からは取らない。浴場は三交代に合わせて開け、負傷者と洗濯を担当する家族も無料。余った燃料は翌月へ繰り越し、量を毎晩掲示する。

「一台分も税を取るのか!」

「百台運べたのは、百人が働けたからです。身体を洗えず病人が増えれば、来月は九十台になる。これは罰金ではなく、生産を守る一パーセントです」

数字は単純だった。しかも坑主ごとの納入量まで名入りで示される。拒めば、誰が町の湯を止めたか一目で分かる。

最初に石炭を持ってきたのは小坑主の老女だった。

「うちは二百台売った。だから二台だね」

その荷車を見て、大坑主たちも渋々動いた。ところが建築が始まると、坑夫は勤務後に石を積み、鍛冶屋は無料で配管を打ち、食堂の娘たちは洗い場の布を縫った。渋々だった者まで、掲示板の残高が増えるたびに口元を緩めた。

完成の日、バルドは鐘を三度鳴らした。早番、遅番、夜番。どの組にも同じ長さの湯の時間がある合図だ。

一番風呂から出た坑夫が、真っ白な手拭いを両手で広げた。黒い指跡はもうつかない。

翌週、診療所の包帯使用量は目に見えて減った。バルドはその数字も燃料表の隣へ貼った。浴場に入った人数と、休んだ坑夫の人数。坑主たちは初めて、湯へ消えた石炭が翌日の荷車になって戻るのを見た。ヘルマンは何も言わず、自分の私有浴場から余っていた大桶を運ばせた。寄付ではなく、帳簿には『中古桶一個、評価額なし』とだけ記された。

四度目の鐘は、誰にも命じられないまま、町の子どもが鳴らした。