『朝礼に残った三行』
月曜の朝礼で、物流センター長は新しい班長の名札を掲げた。
「今期、誤出荷を半減させた功績を評価した」
拍手を受けた副班長は、殊勝な顔で頭を下げた。列の最後に立つ契約社員だけが拍手をしなかった。誤出荷を減らす仕組みを作ったのは自分だと訴えたが、査定では「協調性に欠ける」とされ、契約終了が決まっていた。
センター長が解散を告げる前に、総務担当が手を挙げた。
「先月退職した在庫管理担当から、朝礼用フォルダにファイルが残されています」
ファイル名は「三行だけ読んでください.txt」。センター長は露骨に眉をひそめた。
「退職者の恨み言を朝礼で扱うな」
だが総務担当は読み上げた。
――改善表の作成者は、ファイルの所有者ではなく最初の入力者を見ること。
――二月十四日十八時以降の更新は、誰が何を消したかを見ること。
――会議室予約と入館記録を重ねること。
スクリーンに改善表の版履歴が映った。最初にバーコード照合の手順を書き込んだのは契約社員。副班長は翌週、表紙の作成者欄を自分の名に変えていた。
副班長は笑った。
「共同作業です。あの人は案を出しただけで、運用にしたのは私です」
二月十四日の履歴が開かれた。副班長は十八時十二分から十九時まで、契約社員の記述を三百二十七文字削除し、「提案者」という列そのものを非表示にしていた。
「残業して整理したんです」
「その時間、あなたはこの建物にいません」
総務担当が会議室予約を示した。副班長は本社で昇進面談を受けていた。センターの入館記録も十七時四十分の退館を最後に途切れている。
更新に使われた端末はセンター長室のパソコンだった。
全員の視線が壇上へ集まった。センター長は「共有パスワードだから誰でも使える」と言ったが、退職者のファイルには最後の一行があった。
――共有パスワードを廃止したのは一月。以後、センター長の指紋認証でしか起動しない。
名札を持っていた副班長の腕が下がった。
本社の監査担当が列の後ろから進み出て、名札を受け取った。
「班長昇格を凍結。契約終了も撤回します」
そして名札は、拍手をしなかった契約社員の胸元に置かれた。